写真左:古賀委員、写真右:TERADA.LENON宮崎氏


※ Special第11回は、TERADA.LENONインタビューを2号(上・下)に分けてお送りします。今回はその「下」です。


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キャリアとしてのコンピュータ利用教育業界


さて、最後に3点目の(宮崎さんの)キャリアについてお話をおうかがいしたいと思います。まず、どういう経緯で社員数名のベンチャー企業に新卒で入社することになったのでしょうか?


私が在学中に、うちの社長が産能大に弊社のシステムを導入する仕事にかかわっていて、当時の学部長と色々とシステムのことで相談する機会もあったことから就職先として紹介されたのがきっかけです。当時は社員2名しかおらず、私が入社した数か月前に親会社から独立したばかりの会社でした。


入ろうと思った決め手は?


これから発展していく会社かなと思ったことと、「こうやりたい」「ここが問題ですよね」といった自分の意見を理解してくれて会社の経営に反映できる会社だったことですね。これは小さな会社でしかできない事だと思います。


ベンチャー企業に就職することに対して親御さんからは何か言われましたか?


いや、うちの親は自分の進みたい方向に行けという人だったので、特に言われませんでした。それに私が就職活動をしていた頃はちょうど氷河期だったので、なかなか決まらなくて、内定が取れればそこにいくという感じだったですね。


今は何年目?


8年目です。


宮崎さんが入社したことで、会社が急成長したって聞いていますが


いえいえ、そんなは事ないです(笑)


宮崎さんの何が会社を変えたのかな?


2人だけだとなかなかフットワークを発揮できなかったのですが、私が入社したことでそれができるようになった事が大きかったと思います。それと私が大学時代に勉強していたネットワーク技術を製品の改善に役立てることができた点も大きかったと思います。


インタビューを受けるTERADA.LENON宮崎拓也氏


今後の展望


会社あるいは個人として取り組んでみたい領域はありますか?


我々の製品(クリッカー)は、出席を取ったり、テストをしたりして、日頃から膨大なデータが自動的に蓄積されます。そうしたさりげない情報を分析することで、一人ひとりの動向や学習履歴が閲覧できるような仕組みを作ってみたいですね。


ビッグデータですね。


さらに、そうしたデータを単に大学教育の中に留めるのでなく、社会人になってからも継続して活用できるようにして、人材の登用や育成のためのデータとして活用できるようなポートフォリオを構築してみたいですね。


大学単体でポートフォリオを考えるのでなく、学校~社会をシームレスでつなぐようなポートフォリオということですか?


はい。実現に向けては個人情報保護など乗り越えなければならない障壁は大きいです。ですが今まで誰もやっていないことをいかに取り組むかが、こういう企業(ベンチャー企業)ならではかもしれないです。小さい会社だとなかなか開発費も出ないので、いつかどこかと組んでそういうのをやれたらいいなあと思っています。


先ほどの質問と重複しますが、CIECに対する期待や要望はありますか?


企業展示ブースがちょっと目立たないところにあったりするので、もう少し展示場所とか考えて欲しいなあと思うことはあります。それから分科会で、同じ時間に聞きたい発表が被ってしまって見ることができない場合もあるので、ビデオに収録して後から視聴できるようにしてもらえると嬉しいですね。


最近の学生さんに一言。


やりたい事とやれる事の違いをわかってほしいです。学生の狭い視野で発見できる「やりたい事」ってごくわずかなんですよね。視野を広く持ってほしいです。それと趣味と仕事は一緒にしない方がいいですね。一緒にすると休みの日の趣味がなくなってしまいますから(笑)。

インタビュー後記


広報・ウェブ委員会 古賀暁彦

残念ながらインタビューワーに在学中の宮崎氏の記憶は全くなく、学生時代の彼と今の彼を比較することはできない。しかし、わずか8年の社会人経験でこれだけ立派に成長するというのは、ベンチャー企業での仕事経験によるところが大きいのではないかと感じた。
また、単にクリッカーを販売しているのでなく、販売した後の地道なフォロー活動によって顧客の課題解決に貢献している点が、今のTERADA.LENONの好業績を支えているのだと実感した。

2号に分けてお送りしてきたSpecial第11回「クリッカー専門のベンチャー企業TERADA.LENONインタビュー」は以上です。次回のSpecial記事にもご期待ください!


インタビューを受けるTERADA.LENON宮崎拓也氏


CIEC団体会員でもある株式会社TERADA.LENONは、クリッカー(注1)を専門に扱うベンチャー企業である。クリッカーは大きく「設置型」「ハンディ端末型」「スマートフォン利用型」の3つに分類される(注2)。このうち同社が取り扱っているのは、「設置型」と「ハンディ端末型」である。これら2つのタイプは「スマートフォン利用型」に較べて割高であるというデメリットがある。しかしTERADA.LENON社は着実に業績を伸ばしている。今回のインタビューでは、その躍進の背景について同社営業部の宮崎拓也氏にお聞きした。また、宮崎氏はインタビュアーの大学(産業能率大学)の卒業生でもあるため、ICTを活用した教育ビジネスを就職先として選択した経緯や、ITベンチャー企業という外の視点から見た大学教育の現状とその課題についても話をうかがってきた。
(インタビュアー:CIEC広報・ウェブ委員会 古賀暁彦)

(注1)クリッカー:クリッカーとは、授業の最中教員の提示する選択式問題等に対し、学生がテンキー付きの端末等を経由して解答を送信するシステムの総称である。大学教育においては数年前より徐々に導入されるようになっており、大教室等での一方的な講義を双方向型の授業に変えるツールとして期待が高まっている。


設置型ステッカー

(注2)クリッカーの3類型:「設置型」は、ICカード読み取り機と選択肢ボタンが一体になった端末(右の写真)を学生の机に一台ずつ設置し、その上にICカード機能がついた学生証を置いて用いる。「ハンディ型」は、10キーパッドのついた無線端末を利用する。「スマートフォン利用型」はハンディ端末の代わりに、学生が個人で所有するスマートフォンを利用するタイプである。


※ Special第11回は、TERADA.LENONインタビューを2号(上・下)に分けてお送りします。今回はその「上」です。


TERADA.LENONってどんな会社?


お忙しい中時間をいただきましてありがとうございます。今日は大きく3つのことについてお話を聞かせていただきたいと思っております。1点目はICTを活用した教育ビジネスを行っているTERADA.LENONさんの事業について。2点目はそういった企業で働いている方から見た大学教育のあり方や学会あり方について。そして3点目は宮﨑さんのキャリア、つまり新卒でベンチャー企業に就職して働くということについてとなります。よろしくお願いいたします。


こちらこそよろしくお願いします。


まずTERADA.LENONさんの事業内容や、今までの経緯等について教えていただけますか?


元々は寺田電機製作所という会社の一事業部でした。平成21年(2009年)に、ICカードと連携したクリッカー(設置型)を扱う会社として独立しました。現在はハンディ端末型も取り扱い、販売するだけでなく、システムのカスタマイズや機材のメンテナンス等も行っています。


クリッカー専業の会社ってなかなかないと思うのですが・・・


専業(の会社)はないと思います。扱っている企業で3社ぐらいですが、それらも別の主力事業をお持ちで、クリッカーをメインで扱っているわけではないようです。


主なクライアントは?


四年制大学、特に医療系の大学(学部)が中心です。それらの大学では国家試験があるので、試験に向けての授業を実践する上でクリッカーをご活用いただいております。


というと?


講義の時間の中で学生の一人ひとりの理解度を把握できることが、クリッカー活用の最大のメリットとなっているようです。講義の中で理解しそれを復習する、さらに次の授業につなげる、こうしたサイクルを確立する上でクリッカーが重要な役割を果たしています。


ところで、ベンチャー企業で社員数も少ない中、クライアントはどうやって開拓していったのでしょうか?


最初に導入していただいた医科系の大学の先生が、学会等でクリッカーを活用した授業実践を発表いただいたり、他大学の先生をクリッカーを用いたご自身の授業の参観に招いたりしていただいたことで、横に広がっていったのが一番大きかったです。


その学会というのはCIECではないですよね(笑)


はい、残念ながら(笑)。 確か医学教育学会だったと思います。それと私情協(私立大学情報教育協会)、それから最近では歯科の学会でも弊社の製品を活用した教育実践についてご発表いただいております。


そういった口コミというか紹介を通じて販路が広がっていったということは、あまり競合とのコンペとか価格競争はない感じですか?


いや、あります(笑) ICカードを用いた「設置型」の端末というのは弊社でしか取り扱っていないのですが、ハンディ型とは価格差が大きいので競合します。 私たちは設備導入を前提として営業しているのですが、「ハンディ型」のクリッカーですと先生方の研究費で購入できる金額なので3~4倍の価格差が出てしまいます。そうするとコンセプトの違いを通り越して、安いものに先生方の目が行ってしまうことがあります。


なるほど、最近ではスマートフォンを利用したクリッカーの中には無料で使えるものまで出てきていますからねえ。


そうなんです。あれをやられると我々としても厳しい。


そんな厳しい中、「設置型」のクリッカーの価値や効用を、どうお客様に説明しているのでしょうか?


ICカードの学生証を使うことで、一人ひとりどこに着席しているかが把握でき、誰がどんな解答をしているかを個別に管理できる点をアピールしています。教室トータルとして平均どのぐらいの学生が解答できたかでなく、個々の学生がどれだけ理解しているかを把握できる点が最大の売りですね。特に国家試験合格を目指すような分野では、「個の理解度の把握」は重要なポイントのようです。


ICカード連携型クリッカー(講師画面)


他にはありますか?


設置型は名前の通り机に端末が固定されているので、紛失や盗難の心配がいりません。ハンディ型の端末を導入された大学さんの場合、この端末の管理がかなり大変で、職員の方の運用のストレスが相当高いそうです。


それありますよね。特に国の補助金等で購入したりすると、一台でも無くすとまずいからって、逆に管理が厳しくなって使わなくなってしまったりって、本末転倒ですよねえ。


先生一人の講義に、事務方の人が毎回お付き合いして、クリッカー配布して、回収して、数を数えて、きちんとしまって・・・この労力を考えるとハンディ型の導入を躊躇されるケースが多いようです。


話がちょっと飛んでしまうのですが、設置型のクリッカーを使う上で必要となる学生証のICカード化は進んでいるのですか?


はい、かなり進んでいます。しかしIC化する目的が明確でないままに導入してしまう大学さんも少なくないですよ。


というと?


流れがそうなっているからという理由だけで導入して、結局学食の支払いとか、証明書の発行とか図書館の入館ぐらいにしか活用されていないケースが多いんですよ。


とすると、ICカードタイプの学生証の有効活用といった切り口で、設置型のクリッカーシステムを導入するという線もあり?


あっ、ありです(笑)。 それから、このシステムを導入する時に学生証のICカード化を実施する大学さんもありますよ。


株式会社TERADA.LENONのクリッカー導入事例


企業から見た大学教育・学会


つづいて、2点目の「企業で働いている方から見た大学教育のあり方や学会のあり方」についておうかがいしたいと思います。企業の人から(お客さんとしての)大学を見たときに、率直にどんな印象を持っていますか?外からみて「こういうところが課題じゃないの、なんとかしないといけないのでは」と思うところとかありませんか?


一番疑問に思うのは、「大学教育って何だろう」ということです。一人の先生の教育のことを言うのか、それとも学部全体の教育のことを言うのか。そのあたりがどうも明確になっていない気がします。 それと、大学教育は社会に出るためのステップである筈なのに、それがうまく機能していない。もっと考え方や立ち居振る舞いのことを教えるべきではないかと思います。 熱心な先生とそうでない先生との差が激しいのも問題だと思います。教育内容や教育方法を何年も変えていない先生が本当に学生のためになっているのか疑問に思います。


我々がCIECも含め教育系の学会でお会いする他大学の先生は、おそらくその学校の中でも最も熱心に教育をやられている先生だと思うので、そういった方々ばかりをみていると、世の中の大学の先生の「平均像」が見えてきません。そのあたりの「平均」というのは日々営業で色々な大学を回っている宮﨑さんにはどう映っていますか?


我々にもよく見えません(笑)。でも、一部の大学で教育方法の全体的な底上げに向けた取り組みが始まっていますね。


例えば?


授業の収録システムを活用して、教員の授業を相互評価するような仕組みを導入している大学がありますね。授業参観だと、そこに来ている先生をつい意識してしまうのですが、この仕組みだと参観者を意識することなく普段の授業を実施し、それを評価することができます。


他には?


講義の中で出題する問題の良しあし(言葉遣いや選択肢)を、委員会を作って検討しブラッシュアップしている大学もあります。通常、どの先生がどんなスライドを使って講義しているか他の先生は知りませんよね。それをみんなで検討することで改善している例があります。


そういった授業収録システムをTERADA.LENONで扱っているわけではないですよね?


はい。でもそういった他大学での授業改善の取り組み事例を知っている事が、営業上の武器になっています。また、そうした情報をもとに、異なる大学の先生と先生をつなげる「コーディネート役」を担ったりもします。


逆に、ここの大学うまくいってないなあと思う例はありますか?


学部長や学長が皆の意見を汲み取らないで独断でシステムを導入し、うまくいかないケースですね。あまり授業を担当していない学部長や学長より、普段学生と接している教員の意見をシステム導入に反映することが大事だと思います。


あ~耳の痛い話です(笑)。


目的のはっきりしない導入、例えば補助金申請ありきで設備を導入するようなケースはうまくいかないですね。納品した後、倉庫にしまったままのクリッカーとか。


民間企業からのCIECへの期待は何かありますか?


大学の先生とコラボレーションした企画とかやりたいですね。その中で、色々な大学の先生の意見をお聞きしたいです。


来年のPCカンファレンスではぜひ一緒にイブニングセッションを企画しましょう(笑)


ぜひぜひ


ところで色々な大学の先生の意見というのは、今までの製品開発の中でもかなり取り入れてきたのですか?


弊社の製品は、売りっぱなしでなく、メンテナンスの契約をいただき、使う中で製品への課題や要望をいただき、改善(ケア)を継続しています。


実際に使ってみると、導入の際に抱いていたイメージとギャップがある場合が多いですからねえ。それは重要ですね。

この続きは「クリッカー専門のベンチャー企業TERADA.LENONインタビュー(下)」をご覧ください。


※ Special第10回は、CIEC会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.40)の巻頭INTERVIEW(pp.3-11)を、2号(上・下)に分けてお送りします。今回はその「下」です。


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学習者支援に向けて


今朝(3月9日)の読売新聞で、上田市の神科小学校でデジタル教科書を使うことによって、学習障がいを持つ生徒のテストの点が上がったという記事を見かけたのですが。


それは、私どもが取り組んでいる文部科学省の委託事業でご協力をいただいた学校のことです。


0点だった子が100点取ったということですね。


先週3月4日の金曜日ですかね、参議院の予算委員会で、DAISY教科書の有効性や今後の普及についての質疑もありました。先週から今週にかけて、偶然なのかもしれませんけれど、大きな政治的なことも含めて様々な環境が整ってきました。私どもの製品ラインナップに関してですが。


これが文部科学省の委託事業で作られたものですね。


そうです、はい。


録音機に戻ると、それは例えば子供たちが基本的に一人一つ持つという前提でしょうか。


そうですね。地方自治体の制度で日常生活用具給付制度という制度があるのですが、障がい者の日常生活がより円滑に行われるための用具が給付、または貸与されるというものです。補助率としては9割ぐらいが一般的のようですので、例えば私どもの製品が85、000円のところ、自己負担は1割、つまり8、500円で利用していただくというようなものです。こういった補助がありまして、私どものビジネスとして成り立っているという側面もあります。これは日本だけではなくて海外も同じです。例えば海外ですと国立点字図書館が再生機をまとめてメーカーから買い上げて利用者に無償で貸し出すというケースもあります。


これからの話になるかもしれないのですけれど、例えば『いーリーダー』のようなアプリケーションの場合は、そのような支援はどのような形になりますか。例えば端末自体はどう準備するのかとか。


私が聞いている話では端末については就学奨励費ということで5万円が使える可能性があるとは聞いています。


特別支援学校や小中学校の特別支援学級に在籍している児童生徒のための制度です。


従来は特別支援学級だったのですけれども、平成25年から通常の学級で学ぶ児童生徒についても補助対象として拡充されることになりました。対象となる経費は通学、給食、教科書、学用品などですが、多分この学用品のところに入ってくるのでしょうか。これが一つの財源になるかと聞いております。ただ他にもいろいろ使い道というかご用途があるでしょうから、この機器のためにという費用付けをした制度ではありません。アプリについては、私どもまだ調査中です。ただ先ほど日常生活用具の枠組みの中にも、ソフトの購入に対する支給実績もありますので、可能性はあるのかなと思います。

DAISY教材作成とその再生アプリケーション


今回の平成26年、27年度の文部科学省の委託事業の成果について教えていただけますか。


平成26年度に新しくできたもので、文部科学省が学習上の支援機器を開発する企業なり大学等の研究機関なりに直接委託事業として予算をつけるという、今まではなかったものと聞いています。私どももこれに応募いたしまして、DAISY教材を用いた学習支援システムの開発ということで、現在事業の仕上げの段階に入っております。基本的には三つの要素からなっておりまして、一つが『いーリーダー』で、これが平成26年度の成果物として販売を開始したDAISY再生アプリです。そして平成27年度特に注力して開発しておりますのがモニター機能。それから製作ソフトの三本の柱からなっております。製作ソフトについてですが、PLEXTALK Producer(プレクストークプロデューサー)という総務省の「デジタル・ディバイド解消に向けた技術等研究開発」の助成で開発させていただいたものなのですけれど、それをベースに、さらに現場の先生方が、例えばプリントとかドリルを短時間に作れるというコンセプトで新たに開発し、実証実験をしています。製作ソフトは、イメージ的には次のようなものになります。例えばお手持ちのワードとかパワーポイントとか、それからPDFとか電子化された教材のもとになるようなものをお持ちでしたら、そこから必要な部分をコピーして貼り付けて、さくさくっと作っていただけるというのを一つのコンセプトにして開発を進めております。平成28年度に具体的な商品として、お届けしたいなと考えています。


テキストを自動で音声化する機能があると伺いましたが。


はい、その機能も入っています。それから先生の肉声の音も入れられるような機能も入っています。


DAISY教材を自作できるということですね。


はい、そうです。


既成の教材は、教育現場で全て活かせるかというと、それぞれの事情というものもあってそうはいかず、やはり自作できることは本当に重要だなと感じています。


はい。では少し実証実験を行っている製作ソフトのデモをお見せしたいと思います。まずもとになるテキストや画像の材料を用意して、例えばこの文をコピーして貼り付けるとしますと、ルビも一緒に貼り付けることができます。そして絵も同じです。コピーをして、貼り付けます。画像に関しては、テキストで補足のメッセージを入れることができる代替テキストといわれているものですが、それを入れることができます。その他に、テキスト化されていないものの取り込みに関しては、例えばこういうカメラで撮影したものなのですけど、テキスト化したい部分の画像を選択、コピーして、こちらに貼り付けます。これだと画像として貼り付いているだけなのですけど、ここから文字抽出というボタンを押しますと……。


文字がテキスト化されるのですか。


はい、そうですね。


OCRですね。


そうです。OCRのエンジンが入っていて、取り込むことができます。それから、読みの困難な児童生徒さんは、漢字は「形と音が一対一ではないので読みにくい」ということがあるようですので、全ルビという機能がありまして、クリック2回ですべての漢字にルビをつけることができます。また、自動的に音声をつけることができますので、全てを肉声録音する必要はありません。ルビを修正すると読みも自動的にルビに従って修正されますので、読み間違いのないコンテンツを簡単に作っていただくことができます。ただし、発音のイントネーションのおかしな所は、必要に応じて、発音記号や読み方をカタカナで指定して修正いただくことが必要になります。なお、読み辞書への登録作業を行うことで、該当する漢字に読み方を指定することもできます。さて、ここに録音ボタンがあるのですけど、これで録音をして再生してみますね。

〜再生する〜


子どもたちは、聞きなれた先生の声のほうがおそらく親和性があるような気がするのですが。


はい。こんな形でハイブリットで必要なとこだけに肉声を入れることができます。


すごいですねえ。


(左から中村編集長、武沢編集委員、西澤さん、柳澤さん)


あと自動同期で音声とテキストを紐づける機能が入っています。先ほどお聞き頂いたところは、残念ながらちょっと同期がずれていましたが、こんな風に同期位置を微調整して、正しい位置に修正できるようになっております。


我々、実はあまりこの分野に詳しくなかったのですけれど、こういうオーサリングソフトというのは今まであまりなかったのですか。


はい、なかったと思います。デモの最後に、「ビルドブック」というメニューから様々な出力形式が選べます。EPUB3という最新の規格のうち、EPUB3 Media Overlaysも選んで頂けます。


ルビもそうですけど縦書きにできるのかというのは、まさに日本語特有の機能を実現したオーサリングツールになります。


ここに縦書きボタンがありまして、このように縦書きに変えることもできます。


これから学校現場でこのようなタブレットを、いつになるかわかりませんが一人一台持つような時代になれば、やはりEPUBとか標準的な規格のものが重要ですよね。


はい。


このオーサリングソフトで作成した書籍のリーダーがこの『いーリーダー』ですね。


はい、そうです。出力したEPUBをぱっとそちらに転送して聞くことができるようになっています。


『いーリーダー』はいろいろな規格に対応しているのですか。


はい、そうです。いろいろな規格に対応しています。


現場の教員には、自分の教材を障がいがある子どもたちに簡単に提供できるということですよね。


そうですね、教科書だけではなくて。


先ほど製作したものを再生端末に転送するところをお見せします。今、PCに接続したUSBメモリに直接出力しました。手に持っているのは、市販のWiFiルータなのですが、特徴はUSBポートがあることです。ここに先ほどのUSBメモリを接続します。このWiFiルータを使ってiPadにデータ転送を簡単に行うことができます。細かい話なのですけど、通常iPadへは、USBケーブルで接続した後、iTunesを使わないとデータが転送できません。それが学校現場ではとてもネックになっていまして、iTunesのインストールは禁止というような教育委員会も結構多いのです。じゃあ、『いーリーダー』のダウンロードボタンを押します。これで、WiFiルータに接続したUSBメモリに直接アクセスすることができます。見えますかね。USBメモリの『DAISYデモ』というフォルダに入れていますので、そこをタップしてもらうとダウンロードが自動的に始まります。


じゃあ聞きましょう。

〜サンプルを流す〜


ほんとだ。こんなに簡単にできてしまうわけですね。


今、黄色っぽい背景ですけれども、やはり皆さん違いますので好みによって背景色などの設定を登録できます。例えば誰々くんの設定とか。


細かい部分ですけれども、先ほど縦書きの場合にはこの再生ボタンの三角が左向きになっていましたね。


はい、そうです。横書きの場合は通常のカセットテープと同じで、左から右に流れてくのですけども、縦書きの場合はこれが逆になりますと、早送りと巻き戻しが分からなくなるというようなことがありましたので。


インターフェイスも本当に親切ですよね。


重要ですよね。子どもたちを混乱させてはダメですからね。


『いーリーダー』の特徴としまして、ステップ再生という機能があります。通常の再生ですと、次へ次へと自動的に再生していくのですけれども、本を読むのが難しいお子さんにとってみると、どこを読んでいるのかが分かりづらくなることがあります。例えば音読の授業で、先生が「一つ一つ読んでいこう」と指導したときに自分が止めたいところで止めにくいという問題がありました。そこで、ステップ再生では一つのハイライトの範囲で自動的に止めることができます。次に進みたいときは自分の意思で進めることができるようになりました。


ステップ再生ですか。


はい。このように読みやすさや自分が読みたいところの見つけやすさ、というところを主題にして開発しております。


それでは、まだ開発途中のものですけど、最後にモニター機能のご紹介をします。

〜サンプルを再生する〜


例えばここまで再生した後に、このような形で再生の履歴が残ります。モニター機能といいますのは、1回再生したところが青、2回目が水色、3回目、緑、4回目、黄色、そして橙、赤という表示になっています。再生した履歴がその場で見える化できます。


シナノケンシ社が開発した、読むことに困難のある子供を支援する特別支援教育向けのiPad用DAISY再生アプリ「いーリーダー」。

この機能はどういう時に必要になるのですか。


例えば通常学級の中で使うとき、特別支援学級で使うとき、それから通級指導教室で使うときなど、どんなときにどういう風に使っていただくと有効性が発揮できるか、現在実証実験をしています。具体例としては、テストの問題を何問か解く時に、教科書を見ながら解くわけですが、教科書の本文の正しい場所をちゃんと見ていたかということがパッとビジュアル的にその場でわかります。これを指導に役立てていただこうというのが、実証実験の目的です。今回開発したモニター機能では、どのフレーズを何時何分にどのように再生したかというのを自動的に記録として残します。残す情報は、テキストのID情報とタイムスタンプが主なものですので、非常に軽い負荷で再生機にも負担少なくできます。このことからも、モニター機能が特別支援教育の中で上手く使っていただける可能性があるのではないかと考えています。


モニター機能は、一人一人の生徒たちに紐づけされるような分担もできるのですか。


はい、分担できます。実証実験を今まさに進めているところなので、どういう使い方をしたら効果があるのかというようなことも含めて、研究的要素が大きいと考えています。私どもとしては単に再生するだけでなく、より使いやすいように、児童生徒自身がフォントの大きさや、色を選べるという簡単設定アシスタントというのを作ったり、こういったモニター機能を組み合わせることで、より最適化した環境でDAISYを使っていただけるという可能性があるのではないかと考えています。


特別支援ではなくて普通の学校で、少し障がいを持っている生徒にも……。


ええ、そうですね。今回は,主に特別支援学級の児童生徒が対象になります。ただ特別支援学級の児童さんが通常の学級の中で一緒にやっていただくというのを実証実験のケースとして想定して実施しています。インクルーシブ教育ということで、みんなと一緒に授業を受けたいというニーズを児童さん自身も持ち得ますし。


この情報というのは全国の例えば特別支援の先生方にはまだあまり知られてないのですか。


そうです。情報を先生方に知っていただくのが今後の課題です。


こういう開発環境を作成して頂いた後は、教員が作成するというのももちろんなのですけれども、やはり限界もあって、欧米では教材作成などの支援環境がかなり充実して、そのような環境が小中高大学の中にもできればいいなと感じます。


そうですね、支援センターみたいな形で。


ほんとにそれが重要だと思います。せっかくこういった素晴らしいものがあっても、それを活かす支援体制というものがないと無駄になってしまう可能性もありますよね。


現場の先生にかえってご負担になってしまいますので、確かに支援が必要だと思います。


そうですね、これだけに何時間も、何十時間もかけられません。でも、このソフトは3分間もいらない感じですね。


ほんとにぱぱっと、半自動、全自動でということは私どもが目指しているところです。まずは、こういったツールが出て来て、皆さんがじゃあ使ってみようかと考えるところからです。


そうですね。


支援側の体制が整うのを待つわけにもいきません。効果が現れてくればじゃあ体制を作ろうかということにもなるかもしれませんし。


そうでしょうね。


支援の体制や、教材の管理も含めた製作の総合的環境整備が大事になってくると思っています。


近い将来というか来年再来年以降に商品化ということもお考えですか。


はい、考えています。この委託事業の大事なところは国費を使ったらちゃんと製品として還元してくださいということで、文部科学省から強く言われています。研究のための研究ではなくて。


そうなのですね。文部科学省もインキュベーションみたいな感じでお金を出しているのでしょうしね。


はい。文部科学省としては、今までになかった新しい取組みだとはお伺いしました。なんらかの学習上の障がいをお持ちの児童さんこそ、ICT などの支援で多分一番恩恵を受けられる方々ではないかなと私どもは実感しています。

これからの障がい者支援に向けて


今はまだ高校入試とか大学入試の段階で、読めない、読みにくいという児童、生徒さんがふるいにかけられてしまっているのだと思いますけど、これから上手い合理的支援を……。


必ずやらなきゃいけない。


ええ。そうなるとどんどんこれから支援を必要とする学生さんが増えてくる可能性もありますよね。


神奈川県の県立高等学校で昨年度初めて書字障がいのある学生にパソコンで、キーボードの導入を許した学校が一つ出て、全国で初といわれています。少しずつ世の中がそういう体制になっていくということですね。


はい、そうだと思います。人口が減ってく、イコール若い人口が減っていって、学生さんを国力あげてサポートしていかないといけない時代なのだなあと、今感じています。


我々も特別支援について、知識がなかったのですけれど非常に参考になりました。今日はありがとうございました。

2号に分けてお送りしてきた「『読むこと』を情熱と技術で支援する」は以上です。次回のSpecial記事にもご期待ください!


西澤達夫さん(シナノケンシ株式会社福祉・生活支援機器ビジネスユニットプロジェクトリーダー)

早くからDAISY(注)機器の開発とDAISY教材の製作支援に取り組んでこられたシナノケンシは、元々は絹糸紡績から始まり、モータ事業に軸足を置く会社である。そのシナノケンシが障がい者支援を手掛けるようになった経緯には、必然があったと感じられる。DAISYの策定から教材作成支援にかける情熱を西澤さんにお聞きした。
(インタビュアー:CIEC会誌編集長 中村泰之、CIEC会誌編集委員 武沢護)

(注)DAISY:Digital Accessible Information Systemの頭文字でアクセシブルな電子書籍の国際標準規格です。DAISY録音図書の特徴としては、
・目次から読みたい章や節、任意のページに飛ぶことができる
・MP3などの圧縮技術で一枚のCDに50時間以上も収録が可能
・マルチメディアDAISY図書は音声にテキスト、画像を同期させることができる
などがあります。


※ Special第10回は、CIEC会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.40)の巻頭INTERVIEW(pp.3-11)を、2号(上・下)に分けてお送りします。今回はその「上」です。


絹糸紡績からモータ、そして福祉支援機器へ


本日は、よろしくお願いします。


ご承知のように2016年の4月から障害者差別解消法が施行されて国立大学では障がい学生を支援するのは義務になり、ただし私立は努力義務なのですけれども、私は特別支援学生のICTの授業ももっていましたので、『コンピュータ&エデュケーション』誌で関連の特集を組むことになり、また、昨年5月の東京のビッグサイトでの教育ITソリューションEXPOや6月のNEW EDUCATION EXPOでブースを出されていたシナノケンシさんのお話を伺いたいと思って参りました。


隣に、実は資料館ということで絹糸紡績の時代の歴史的建物と資料がありまして、なぜ『ケンシ』というあたりのところを池田(シナノケンシ株式会社 グローバル事業推進本部 グローバル人事・総務グループ 人事チーム チームマネージャー)からお話させていただこうと思っております。


創業は1918年になります。あと2年で100周年を迎える会社でございます。今西澤が申し上げた『ケンシ』というのは、漢字で書きますと『絹糸』と書きまして、創業は信州信濃から信濃をとって信濃絹糸紡績株式会社という絹糸紡績から始めた会社でございます。その絹糸紡績に関する資料館がありますので、そちらで絹糸についてもう少し詳しく説明させていただきたいと思います。その後50年ほどして、モータに事業転換を図るとともに社名もカタカナのシナノケンシに改称しております。そのモータを今も続けているという状況でございますが、モータというのは色々な技術が必要でございますので、その技術を使ってモータという部品だけじゃなくて、完成品を作ろうじゃないかということで様々な製品を、モータを軸にして作ってきております。モータは様々な分野で使われておりまして、最近ですと自動車関係とか、医療関係といったところに使われております。当社の事業の大体9割がモータの事業でございます。残りの1割が学習支援で、一部こういったハイスピードカメラのような製品も作っております。もともとはモータから派生してテープデッキを作っていたのですが、カセットからCDに市場が変わるとCDを回すターンテーブルを作り始めました。その後、CDのBGM機器とか、CD-ROMドライブを作っておりました。そのようなことをしているうちに、当時の厚生省から、視覚障がい者支援の読書機を作ってみないかという話が舞い込んできまして、取り組み始めたのが、学習支援へと繋がるきっかけでございます。


今お話を伺っていると、最初モータ事業から始まって、そこからCDドライブ、次にメディアそしてソフトウェアという、自然なつながりがありますね。


そうですね、モータに注力しているというところですが、福祉支援機器としても継続してやっていく方針です。それでは資料館をご案内します。

(資料館見学)

世界初の視覚障がい者向けデジタル読書機の誕生


ではさっそく、福祉関係のお話をお願いします。


なぜ絹からモータ、そしてモータから視覚障がい者向けの読書機と変遷してきたのかを最初に紹介したいと思います。なお、この読書機の開発製品化の取り組みについては、内閣府主催による「平成24年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」において、内閣総理大臣賞をいただくことができました。視覚障がい者向けの読書というと、私どもは点字図書がすべてだと思っていましたら、実は約9割の視覚障がい者の方たちは音声で読書をされているということを知りました。そしてこの状況は日本だけではなくて基本的に海外も同じような状況になっています。録音図書の歴史としては、実はアメリカに先例があり、LPレコードという形で、両面で1時間音声に吹き込んだものを貸し出すというサービスが始まったのが1932年だそうです。その後オープンリールの時代を経て、1970年代にはカセットテープでサービスが行われておりました。私どもが厚生省からお声がけをいただきました1993年には、音楽市場はカセットテープから一気にCDへ変わっていました。カセットテープは、容易に想像できると思うのですけれど、一種の絵巻物語なので、聞きたいところが探せないのですね。例えば学習ですと、何ページを見ましょうといったときに一生懸命テープを早送りしなくてはいけないのですが、デジタルであれば一発ですぐ飛んでいけますよね。ということで、どうして視覚障がい者のサービスだけが旧態依然としたカセットテープかという気運が高まっていた時に、この厚生省の専門官の方が、どういうわけかシナノケンシがCDを使った業務用BGMの機械をやっているというのを聞きつけたのです。BGMもCDに切り替わってきていまして、私どもが開発した業務用BGMには二つ大事なポイントがありました。一つはともかく壊れないというタフなことですね、それから二つ目は長時間を実現するということです。お店の人が一時間で最初の曲に戻ってしまうのでは飽きてしまうし、入れ替えたりするのも手間なので、ともかく長時間安定的に再生できる機械が必要でした。そこで、CD-IというフォーマットでCD一枚に8時間、モノラルですけれども、FM放送並みの音質で入れられるという技術を私どもで開発しました。オーサリング、エンコーダーシステムとともに、お納めしていたというのを専門官の方がお聞きになられたのです。


厚生省の方々は、やはり視覚障がいの問題意識を持っていたのですか?


そうなのです。そういう問題意識を持っていて,デジタル化をどこかやってくれるところはないかと。


ほとんど偶然みたいなものですね。


そうですね。何故シナノケンシにお話が来たのかは定かではなく、多分、大手の電機メーカーさんにもお話は持っていったと思うのですけれども、おそらく、これは想像でしかないのですが、やはり市場の規模とかそういったことをお考えになったのではないかなと。しかし私どもは、たとえ国内の視覚障がい者の市場が小さくても、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国集めれば、10倍とか20倍に規模が大きくなりますので、最初から国際的に束ねて通用する業界標準を作って、視覚障がい者の方々に安価な形で、10万円を超えるようなものではだめなので、最初から4万円以下という目標を決めて、このプロジェクトを開始したのが1993年になります。国際図書館連盟という国際団体があるのですが、その中に盲人図書館セクション(LBS)という視覚障がい者に特化した専門図書館部会がありまして、その議長が河村宏さんという方で、現在は、DAISY規格を開発・維持している国際団体であるDAISYコンソーシアムの会長を経て、理事を務められています。この方を通じて、例えばアメリカの点字図書館の館長さんとかイギリスの点字図書館の館長さんとかそれぞれの国での有力な団体のトップの人をご紹介いただいて、マーケティングを1995年にかけて、私どもでやらせていただくことができました。


じゃあDAISYというのは、この当時からもうあったのですね。


そうですね。この当時に作ったというのが正しいですかね。それで、マーケティング活動の結果、どうやら、聞きたい場所がすぐ探せない、かさばるという不満がCDを使って音声を圧縮して入れれば、瞬時に聞きたいところにいけるし、CD一枚で長時間可能です。当時MP3とかが出始めたときなのですけど、それらの新しい圧縮方式を使えばいけるのではないかという、技術的なメドもついてきましたので、市場性はあると考えました。世界を束ねればそこそこ大きな市場になりそうだということです。そしてあとは私どもが持っているCDを回す技術とか読み取る技術とか音声を圧縮する技術を組み合わせれば、実質的には何か実現できそうだなと。


それが先ほど資料館で拝見した初代機ですか。


初代機につながります。実はこのあとすんなりと初代機にはいかなくて、コンセプトは固まったのですけど、カセットテープ機とは違いCDというデジタルの機械で、録音図書を入れたものがどんなユーザーインターフェイスを持つべきか、という先例が世の中にありませんでした。それじゃあ自分たちで作ってしまおうということで、とりあえず試作機を作って、あなた方の欲しいものはこんなものでしょうかというような形で市場に提案しました。これが初代の試作機なのですけれど、動くモックアップを作りまして、実はこれ単独では動かなくてこの下にCDドライブを付けて、将来このワンパッケージに入りますという形で、ご提案しました。ここに入っている機能は今のDAISYの再生機の中で基本的に使われている機能がほぼ、実現されています。


原型みたいなものですね。


はい、そうですね。プロトタイプをお客様に触っていただいたところ、あ、これが欲しかった、と。とてもいい手ごたえを得たというのが最初でした。そして、国際標準を作ろうという話になりまして、私どもとしては、再生機の提供等で縁の下でお手伝いをすることにしました。ちょうどそのときに、スウェーデンのラビリンテンという会社がスウェーデンの国立録音点字図書館(当時tpb、現在はMTMに改称)から委託を受けてDAISYという基本コンセプトを開発していることがわかりました。その出会いがありまして、シナノケンシはハードウェア、再生機をつくり、ラビリンテン社がオーサリングソフトをつくる、ということになりました。


当時、ちょうどWindows95が登場していましたね。


はい。大がかりな100万円、200万円というオーサリングシステムでなくても、汎用のパソコンを使ってソフトで作れるというところが見えてきた時代で、ラビリンテン社とタッグを組んでやりましょうということになったのです。そして、国際的なフィールドテストといわれていますけど、世界30ヶ国くらいにご参加いただいて、このDAISYは視覚障がい者の読書環境をこれから担っていくものとして最適であるという結果が得られました。そして、デファクトの国際標準ということで決まったのが97年です。で、それを受けましてさっきちょっと出てきました……。


初代機ですね。


はい。TK-300という名称で1998年に初代機が登場したという形になります。それで、初代機の登場の後としては、お客様の声をいろいろお聞きしながら、例えば録音ができるものが欲しいということでPTR1が生まれています。


(シナノケンシ株式会社 福祉・生活支援機器ビジネスユニット 営業課 企画・営業) やはり、紙のメモを取るのは視覚障がい者の方には難しいので、テープレコーダで録音されていました。それを検索ができるDAISYで録音したいというご要望がありました。


(左から柳澤さん、西澤さん、池田さん)

DAISYを育てた自負


あともう一つはやはりCDという物理的な自縛がありますので、ちょうど半導体メモリも非常に安価になってきましたので、登場したのがこちらの今ご覧いただいているポケット型の機種になります。で、この辺の時代の製品になってきますと、WiFiが内蔵してあります。インターネットに直接繋がって、2010年にサービスインした「サピエ図書館」というオンラインのバーチャルな図書館から、DAISYオンラインプロトコルというDAISYコンソーシアムが決めているプロトコルで図書を配信できるようにすることを2011年に始めました。これで、利用者が自分の聞きたい本を選んでダウンロードしたり、ストリーミングで再生しながら、インタラクティブに自宅で24時間いつでも聞くことができるようになりました。


これは日本の図書館ですか。


はいそうです。理想的な読書環境というものの実現に、私どもが寄与できているのではと思っています。


サピエ図書館には、どういう分野がどのぐらい収められているのでしょうか。


7万タイトル以上が利用できます。文学系など、余暇を楽しむものが多いでしょうか。あと専門書としては、鍼灸、あんま、マッサージなどの医療系などです。また、週刊誌や月刊誌の定期配信も行われています。


音声図書にするための録音は、ボランティアなどでおこなわれているのでしょうか。


そうですね。音訳のボランティアの訓練というと大げさかもしれませんけど一年くらいの養成コースがあります。


音訳っていうのですね。


はい、音声に訳すということで。音訳では感情を込めればいいというものではないので、文字を淡々と利用者の方に伝える、つまり自分たちは透明でなければいけないというお考えもあるようです。でも結構大変なのは誤読防止ですね。誤読がないように、読み始める前には人名・地名辞典とか専用の辞典でしっかりと下調べをしてから音訳をします。


同音異義語というか、同じ発音で意味の違うようなところって結構大変でしょうね。


はい。その場合も多分音訳のテクニックとして、しゃべった後に、なになにの、とか漢字の説明を加える場合もあると思います。こういうのは、文学作品はあまりそこまで要らないとしても、いわゆる学習とか専門的な知識を得るときにはそのような配慮が必要になってくることもありますね。


では、実際に音訳を聞いていただきましょう。

〜サンプルを流す〜


こんな形で、あまり感情は入れないで読まれます。


読み方や製作方法の基準があると聞いています。


スピードなどの制限もあるのでしょうね。


そうですね。ただスピードは再生機で任意に変えられまして、結構みなさん速く聞かれています。3倍速だったり。最近の傾向をお話ししますと、従来は音声DAISYといわれ、音声ファイルだけでDAISYが構成されていたのですけど、最近は早くDAISY化して欲しいとの要望に応えるため、テキストDAISYというテキストファイルのみで構成されたDAISYのニーズが高まりつつあると聞いています。テキストDAISYに音声はついていないので、利用者は保有する再生機器の音声合成機能を使って聞きます。そして、テキストファイルがあるので、もとの漢字を個別に読み上げて確認することもできます。録音というのはリアルタイムでしかできませんので、小説ですといわゆる文庫本のもので10時間くらいの録音長になります。そうすると最低10時間の録音が必要なのですが、言い間違いとか、雑音が入ってしまったとかで、現実には10時間の成果物を得るのに倍の20時間ほど録音しなくてはいけないと言われています。20時間ぶっ通しで録音はできないので、せいぜい1回あたり2時間となると、少なくとも10回ぐらいに分けて録音しなくてはいけないことになります。ボランティアの方が毎日2時間ずつ録音できるかというとそれも厳しいので、1冊仕上がるのに数ヶ月とか半年とか、校正も含めるとかかってしまいます。これが音声DAISYですけれど、テキストDAISYですともっと早く、例えば1ヶ月以内にできる可能性があると聞いております。


読み上げを音声合成で自動化してしまうということはできないのですか。


それも可能です。後でご紹介しますが、当社では製作ツール、つまりオーサリングツールを開発しております。そこには音声合成エンジンが入っていますので、肉声で録音してもいいですし、音声合成を使ってもいいですし、また両者を組み合わせたハイブリット方式もご案内をしています。


(左から中村編集長、武沢編集委員、西澤さん)


以上、何故福祉の分野をやるようになってきたのかという流れをご紹介しました。DAISYの応用が視覚障がい者向けということで当初スタートしたのですけど、2000年代に入りまして、ディスレクシアの方をはじめとする、視覚的には見えても頭脳の文字処理のところで困難を持つ方が、テキストと音声が同期して提示可能なマルチメディアDAISY方式があると非常に読みの負担が減って、理解が進むということを聞くようになりました。そこで、是非私どもの持っているDAISYの色々な技術でお役にたちたいという思いがございます。これが文部科学省の委託事業につながってきております。

この続きは「第10回#2 「読むこと」を情熱と技術で支援する(下)」をご覧ください。