今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

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高校生プロジェクトが誕生する生態系とは?

今村亮 (認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター)


今村亮 (認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター)

高校生が主役となるプロジェクトが注目を集めています。三重県多気町「高校生レストラン」や、福井県鯖江市「JK課」、宮崎県えびの市「飯野高校3年B組×曽我部恵一」など事例に事欠きません。従来より農業高校や商業高校など専門高校ではこうした取組が盛んでしたが、今では普通科での展開も広がっており、この流れに次期学習指導要領の検討が拍車をかけています。

ただしプロジェクトにおいて、高校生の参加が大人の「操り」や「お飾り」になってしまっては本末転倒です。プロジェクト学習をデザインする際には、その活動が本当に高校生の学びにつながっているか、指導者は注意深く点検する必要があります。

そこで、私のラーニングスタジオには高校時代にプロジェクトに取り組んだ二人の学生(すず・ななみ)をゲストに招きました。参加者二人の事例をインタビューしていただき、過去を辿りながら、「高校生プロジェクト」のあるべき理想像についてディスカッションしました。

一人目のすずが神奈川県川崎市で取り組んだのは、子ども支援プロジェクト「声でつなぐ」。放送部での活動を、部内に限定せず地域に飛び出して行おうというものでした。独りで始めたプロジェクトでしたが、勇気を出して部内の同級生を巻き込んだ結果、友人関係がより深まった様子が語られました。

二人目のななみが宮城県仙台市で取り組んだのは防災プロジェクト「イマココミライ」。宮城県内の被災格差を埋め合わせるための写真展やワークショップの活動です。学校から活動を認めてもらえず、先生との衝突に苦しんだ体験が語られました。

二人の体験談から導き出されたのは、「高校生プロジェクト」の意義とは何か、という問でした。プロジェクト活動が社会に与えるインパクトと置くこともできますが、それ以上に注目すべきは本人にもたらす学びの深さでした。プロジェクトが成功しようがしまいが、行動すること自体が高校生たちを明らかに大きく成長させます。その成長と自立は、ロジャー・ハートの「参画のはしご」モデルを参考にすることでわかりやすく確かめることができます。

また、彼女たちには家庭・学校に続く第三のコミュニティがあったことも特徴的でした。それはななみにとっては海外留学であり、すずにとっては地元自治体のプログラムでした。家庭・学校・第三のコミュニティ、それぞれが関連しながら成長を導く生態系のような関係性が形づくられていたと言えます。こうしたエッセンスを引き出していただいた参加者各位の熱心なインタビューに心から感謝を申し上げます。

結論として2点まとめます。一点目は、ともすれば「高校生プロジェクト」が時代のブームの中で粗悪なインフレへと流れてしまうことの懸念です。自主的なプロジェクト活動を強制してしまうことは全く無意味です。二点目は、だからこそ私たちNPOカタリバは「高校生プロジェクト」のあるべき姿を問う場所として、全国高校生マイプロジェクトアワードを運営していくのだという決意の再確認です。

今年も300~400プロジェクトのエントリーを目指して生態系を拡げているところですので、よろしければWEBサイトをご覧いただければ幸いです。

全国高校生マイプロジェクト

https://myprojects.jp/


2017PCCラーニングスタジオ「高校生プロジェクトが誕生する生態系とは?」(今村亮 認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター)

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今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

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企業をしらべれば人生が変わる

西野嘉之 (産業能率大学客員教授,ユーレット株式会社代表取締役CEO)


2017PCCラーニングスタジオ「企業をしらべれば人生が変わる」(西野嘉之 産業能率大学客員教授,ユーレット株式会社代表取締役CEO)

「企業をしらべれば人生が変わる」と題して、有価証券報告書などの企業情報をまとめたユーレットをご紹介し、スマホやPCで一緒に見ながら情報の順位と配置の重要性を体験して頂きました。


さらに、トヨタ自動車を分析し、250文字で概要「自動車業界の現状から、トヨタ自動車の課題と、将来について考察してください。」をまとめることを冒頭と最後に行い、企業を調べるポイントとそのプロセスを理解することで、どれだけ自分の概要が明確になるかを体験して頂きました。

ポイントは3つありました。第一に、第三者にわかりやすい文章構成で書く事を目指すということです。ある一つの論文の概要を例とし、「背景」「課題」「提案」「その効果」という構成で考えることの重要性を説明しました。これは大学のレポートや論文、あるいは社会に出てからも、シンプルに短く書くことの重要性とその難しさを、ご自身が冒頭で書いた文章と比較することで、セルフチェックをして頂きました。

第二に、結論から考え、どのくらい先の未来を結論とするのかが重要であることを示しました。結論として、そもそも4つのタイヤがついている車を想定するのか、あるいは空飛ぶ車まで想定して概要を書くのとでは、解決すべき「課題」が変わってくるからです。

第三に同業他社や、異業種の有価証券報告書の「対処すべき課題」を人間が比較する方法と、人工知能によって4000社を比較する方法をご紹介し、人口知能が人間に置き換わるのではなく、将棋の棋譜のように人工知能にデータを与えれば、人間が想像しきれない値を出し、人間が解釈することで新たな発見があることを体験して頂きました。

最後に、もう一度トヨタ自動車の概要を250文字で書いて頂き、2時間前にご自身で書いた概要と比較して、どの程度改善されたのかを考察して頂きました。さらに、一例として私の回答をご紹介して、ご自身が書かれた概要と比較して評価して頂きました。

終了後にアンケートを記入して頂きました。その結果、ほとんどの方に「非常に満足」で量も「丁度」良かったとご回答頂きました。時間に限りがありますが、もう少しPC環境の良いところでさらに手を動かしながら出来るとさらに効果が出ると感じました。

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今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

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鑑賞ガイドをつくる

石川初 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)


石川初 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

本ワークショップの課題として、以下のテキストを掲げた。

このワークショップの課題は「鑑賞ガイドをつくる」です。街で私たちの周囲にありふれている,あるいは容易に見出すことができるにも関わらず,従来は愛でる対象ではなかった風景や事象,または事物を選び,それらを「鑑賞」するためのガイドを制作します。絵や写真を使い,対象物の魅力が力説された,それを手にするとそれ以降は二度と以前のようには見えず,それを楽しく「鑑賞」してしまう,そのような視線の更新を起こすガイドの制作を目指します。今回は,これまで大学の演習などで作ってきた学生の作品のなかからいくつかの優れた事例を紹介したのち,短いレクチャーを行い,その後参加者に手を動かしてもらい,鑑賞ガイドを作成,最後にそれを発表してもらいます。

デザインやものづくりなど、何らかのものに関わる創造的な発想ができるための基礎的資質は、いかに先入観を排して物事を眺めることができるか、ということである。これに気づくための体験型・創作型の教育ツールとして、鑑賞ガイドづくりは有効である。鑑賞ガイドは、単に物事を収集して羅列・分類する「図鑑」ではない。よい鑑賞ガイドは私たちを取り巻く世界のある部分を切り取って、それに意味を与え、風景として眺めることを促す「視座」をもたらす。つまり、鑑賞ガイドは現実世界に対してすぐれて批評的な表現である。

ワークショップでは、まずこれまで筆者が同様の趣旨で実施した演習や授業の事例や、それらを履修した学生の優秀作品を紹介し、その後、教室を出てキャンパスを歩きながら各自でガイドの対象物を発見するフィールドワークを行い、その後教室に再集合して、撮影した写真を印刷し、A4用紙に貼り付けてそれぞれ独自の「ガイド」を製作、お互いに発表と講評を行った。

フィールドワークの前に、以下の「手法」を紹介した。

・愚直法: 「丸いもの」などのテーマやルールを決め、時間いっぱい、ひたすらに目についた「丸いもの」の写真を撮り続け、それらをずらっと並べてみて、そこから何かを見出す。

・執拗法: 目を引いたものや関心を抱いたものを、普段とは違う高さや距離で撮影し、その写真とじっくり向き合いながら読み替えたり見立てたりして、執拗な解説を加える。


参加者はみな積極的で、みな趣旨を早々に理解していた。最後には、赤いものの写真をひたすら取り続けて並べてみて、赤いものは「危険を知らせるサイン」と「それ以外」に分けられる、という発見や、木の樹皮の接写に「ドラム缶」「渓谷」などと名付けたものなど、独創的でユーモアのある「ガイド」が並んだ。


2017PCCラーニングスタジオ「鑑賞ガイドをつくる」(石川初 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

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2017PCカンファレンスは、8月5日(土)から7日(月)までの3日間、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにて開催されました。今回の全体テーマは「創造する学び -アクティブ・ラーニング2.0-」でした。そのコンセプトにもとづき、初日午後には恒例のシンポジウムではなく、“アクティブ”そして“創る”を意図したワークショップ型の「ラーニングスタジオ」が開講されました。

Special第12回は、2017PCカンファレンスにおいて初めて実施された8つの「ラーニングスタジオ」の報告を、順次公開していきます。ぜひご覧ください。

Special第12回「2017PCCラーニングスタジオReview」

  1. 「社会的課題を仕掛けで解決しよう」 (松村真宏 大阪大学大学院経済学研究科教授) 2017.8.11公開
  2. 「鑑賞ガイドをつくる」 (石川初 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授) 2017.8.15公開
  3. 「企業をしらべれば人生が変わる」 (西野嘉之 産業能率大学客員教授,ユーレット株式会社代表取締役CEO) 2017.8.19公開
  4. 「高校生プロジェクトが誕生する生態系とは?」(今村亮 認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター) 2017.8.23公開
  5. 「予言する消費者 -未来からのデータ分析-」(小野田哲弥 産業能率大学情報マネジメント学部准教授,CIEC理事) 2017.9.7公開
  6. 「世界地図と地理とペーパークラフト Cartography, Geography and Paper Modeling」(鳴川肇 慶應義塾大学環境情報学部准教授) 2017.9.19公開
  7. 「その研修・講座は星いくつ?~大学生協PC講座を題材に~」(北村士朗 熊本大学教授システム学研究センター,CIEC副会長理事) 2017.9.23公開
  8. 「匿名チャットの,あやしくて創造的な学び。」(若新雄純 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授,株式会社NewYouth代表取締役) 2017.9.27公開

2017PCカンファレンスは、8月5日(土)から7日(月)までの3日間、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスにて開催されました。今回の全体テーマは「創造する学び -アクティブ・ラーニング2.0-」でした。そのコンセプトにもとづき、初日午後には恒例のシンポジウムではなく、“アクティブ”そして“創る”を意図したワークショップ型の「ラーニングスタジオ」が開講されました。

今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

最初に報告を掲載するラーニングスタジオは、松村真宏氏(大阪大学大学院経済学研究科教授)による「社会的課題を仕掛けで解決しよう」です。

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社会的課題を仕掛けで解決しよう

松村真宏 (大阪大学大学院経済学研究科教授)


松村真宏 (大阪大学大学院経済学研究科教授)

筆者は「PCカンファレンス2017」で企画されたラーニングスタジオの一つとして「社会的課題を仕掛けで解決しよう」を担当した。社会的課題の多くはゴミのポイ捨てから防犯、運動、食生活といった私たち自身の行動が作り出しているので、私たち自身の行動を変えることがそれらの課題を解決する最も素直な方法になる。本ラーニングスタジオでは、筆者が取り組んでいる「仕掛学」のアプローチを用いて社会的課題を解決することを2時間15分で体験してもらうことを目的として実施した。

「仕掛け」は、行動の選択肢を増やして、その選択肢に人々をいざなうものである。したがって、上手い仕掛けを作ることができれば、人々が自ら進んで問題を解決するような環境をつくり出すことができる。そのような仕掛けの考え方を知ってもらうために、最初の45分は仕掛けの事例紹介や発想法といったミニレクチャーを行った。その後、6班に分かれて解決すべき社会課題を検討してもらい(15分)、その課題を解決する仕掛けを考えてもらい(45分)、A3の紙とペンでプレゼンテーションの準備をしてもらってから(10分)、最後に各班が検討した社会的課題とその課題を解決する仕掛けのアイデアを発表してもらった(20分)。

ここで発表された社会的課題およびその課題を解決する仕掛けは非常に多岐に渡る。以下ではその一部を紹介する。これを見れば、本ラーニングスタジオが成功だったかどうか明らかであろう。

(1)生徒の忘れ物を減らす
提出物を提出したら給食のお代わり券や指名されない券といった券がもらえる仕掛け。

(2)動く歩道で歩く
歩かないと太って見え、歩くと細く見える鏡を設置するという仕掛け。

(3)人と人との交流を促進する
質問カードと回答カードを配布し、対になる質問と回答を探すという仕掛け。

(4)歩道を広がらずに歩く
歩道を色分けする、足跡を描く、足跡が光って誘導する、踏むと音が鳴る足跡を描く、いろんな歩幅の足跡を描くという仕掛け。

(5)エレベーターの片側問題
乗る時に問題が提示され、ステップの右に立つか左に立つかで回答を選ぶ。回答が左右にばらけるような問題を出すという仕掛け。

(6)電車でシルバーシートに若い人が座る
運動できる車両を用意して、元気な人にはその車両で運動してもらうことで、結果的に疲れた人はシルバーシートに座りやすくなるという仕掛け。


2017PCCラーニングスタジオ「社会的課題を仕掛けで解決しよう」(松村真宏 大阪大学大学院経済学研究科教授)

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