2018年のPCカンファレンスについてご案内申し上げます。

2018PCカンファレンス
日時:2018年8月24日(金)25日(土)26日(日)
会場:熊本大学 黒髪南キャンパス

詳細は決まり次第ご案内申し上げます。


今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

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匿名チャットの,あやしくて創造的な学び。

若新雄純 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授,株式会社NewYouth代表取締役)


若新雄純 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授,株式会社NewYouth代表取締役)

僕が担当させていただいたラーニングスタジオ「匿名チャットの,あやしくて創造的な学び。」は、ふだん講演やワークショプでよく使っている匿名チャットのシステムを参加者のみなさんに使っていただいて、カンファレンスのテーマになっている「アクティブ・ラーニング」と「創造する学び」を模索していく、というものでした。部屋を暗くして、お香をたいて、黙々とコメントを入力する異様な空間を楽しみながら、発見、学び、反省点がいっぱいできるスタジオになりました。

①「創造的な学び」とはどのようなものであるかを、その場で即興的に発見していく
② 匿名チャットを活用した学びの場をどのようにファシリテーションしていくか

という二つのテーマがあって、それぞれをうまくつくりだしたいという試みでした。

前者については、参加してくださった方の興味やレベルが高くて、短い時間でたくさん発見の連鎖がありました。
アクティブ・ラーニングは、教室のあり方・形式ではなく、学ぶことへの姿勢の問題で、失敗や間違いを恐れていない小学校低学年は、最初から本質的にアクティブな学びを体現しているのではないか? 創造的な学びを阻害しているのは、失敗や間違いが減点になる恥ずかしいことである、という感覚ができていくことで、学びそのものが面白くなくなっていくからではないか? 節目としてのテストはあってよいが、日常的な学びのプロセスでは間違いや失敗はむしろ歓迎すべきであり、そこから多様な発見や面白さの連鎖が見えてくるのではないか? など、間違いや失敗、テストと点数という仕組みが、学びそのものにあった「いろいろ間違っても新しいことを知ったり得たりすることはとても面白い」という価値を埋没させてしまうのではないか、ということを確認していきました。

後者については、スタジオの実践から反省点がたくさんありました。
相互発見がたくさん生まれて盛り上がってくると、徐々にその場の議論を「まとめたい」という気持ちが教室の中に生まれてきてしまいます。それは、僕自身にもです。
そして、その空間が「時間内の着地」を意識した途端、匿名の議論もどこか陳腐になってきます。
いくつかの工夫が必要で、そこまでの発見を用いて全く違う具体的な事象について議論するか、あるいはそこでグループをつくってリアルトークをするか、体を動かすか、はたまたお菓子でも食べるか、休憩とみせかけて全く違う形での議論を行うかなど、「発散」や「共感」を着地ではなく発展につなげる必要があったし、それがうまくできると、もっと面白いものにできたのだと思います。
しかし最後は、「もんもんとした気持ちを持ち帰ることで、学びの時間が帰宅まで続くのではないか?」というコメントに救われ、教わりました。
「学び」はプロセスであり、連鎖であり、本来、区切りや着地なんて必要ないはずだったのです。


2017PCCラーニングスタジオ「匿名チャットの,あやしくて創造的な学び。」(若新雄純 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授,株式会社NewYouth代表取締役)

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今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

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その研修・講座は星いくつ?~大学生協PC講座を題材に~

北村士朗 (熊本大学教授システム学研究センター,CIEC副会長理事)


北村士朗 (熊本大学教授システム学研究センター,CIEC副会長理事)

全国の約100大学で開講され受講生も17,000名に至っている大学生協PC講座は、学生スタッフが講師、TA(Teaching Assistant)、GA(Group Assistant)として運営しています。

学生スタッフは学習者として大学や高校までの授業ではアクティブ・ラーニング等の新しい授業スタイルや問題解決型の授業、ワークショップを経験しているはずなのですが、立場が替わった講師やTAとしては、携わるPC講座において旧来の一斉授業スタイルでオフィスソフトの機能紹介を中心に講座を進めているケースが少なからず見受けられます。その状況に筆者は以前から疑問を抱いていました。

そこでラーニングスタジオ(4)ではそういったPC講座での一斉授業スタイルの是非を検討し、現状でよいのか?どうすればより良くなるか?といった観点から建設的に批判できるようになることを目指し、架空のPC講座(ケース)を題材にインストラクショナルデザインや成人学習のモデル・理論を用いて評価(星いくつ付くか?)しながら、長所や問題点・課題、改善案を検討し、建設的批判の立場で議論することとし、大学生協PC講座関係者(学生スタッフ・職員・理事)を中心に64名にご参加いただきました。

まずウォーミングアップとして、受講者にこれまでに受講した講座(研修・授業)で良かったもの/良くなかったものをひとつずつ思い浮かべ、なぜそう思うか理由をワークシートに書き出し、隣同士で情報交換していただいた後、この日用いる「ID第一原理(五つ星)」「成人学習理論 」「TOTEモデル」が解説されました。ここで、多くの受講者は「良かった」「良くない」には理由があり、その理由を裏付ける理論・モデルがあることに気付いたはずです。

次によく見られるPC教室のケース(講師の指示のもとステップバイステップで進む形態)を用い、ウォーミングアップで学んだモデル・理論を使った評価の練習を行いました。実際のPC教室の様子を動画などで見るのではなく、目標や進行等を記したレッスンプラン(授業案)だけからの評価でしたが、参加者はここで実際の教室を見なくてもデザインレベルでの評価が可能なこと、理論・モデルが考え・議論する材料(きっかけ)として有用なことを体験しました。

そしてこの日のメインメニューである「ある生協のPC講座」の架空ケースを題材としたワークを行いました。このケースも講師の指示のもとステップバイステップで進めていく一斉授業スタイルのものです。参加者はレッスンプランを読んだ上で、ここまでに学んだモデルや理論を用いてワークシートに評価と理由、思いついた改善アイディアを記入し、周囲の人とディスカッションし、改善アイディアを出し合いました。

ディスカッションは大変に盛り上ったものとなりました。その間の参加者の手元のワークシートを見ると、ついた星は少なく(=評価は低く)、その分、多くの改善アイディアが書き出されていました。多くの参加者に、このケースのような、そしてよく見受けられる一斉授業スタイルのPC講座の問題点や課題に気づき、改善のためのアイディアを持ち帰ってもらえたものと思います。

このラーニングスタジオを通じ、今後の大学生協PC講座が理論やモデルに則った、そして学生スタッフが学習者として体験している新しい授業スタイルを取り入れたものになっていくことへの期待が膨らみました。参加者・関係者の皆さんに心から感謝申し上げます。


2017PCCラーニングスタジオ「その研修・講座は星いくつ?~大学生協PC講座を題材に~」(北村士朗
熊本大学教授システム学研究センター,CIEC副会長理事)

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今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

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世界地図と地理とペーパークラフト
Cartography, Geography and Paper Modeling

鳴川肇 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)


鳴川肇 (慶應義塾大学環境情報学部准教授)

講演者が考案した世界地図図法を用いたワークショップを行いました。オーサグラフ世界地図は面積比を極力正しく表現しつつ、形などの歪みも抑えた長方形の世界地図です。当日は以下の内容の講演と製作作業を行いました。

  1. 最初にこの地図の特徴とそれを用いた主題図、1つのテーマを視覚化した世界地図を手短に説明しました。続いて地図図法に関する質疑を行いました。
  2. この地図の立体的な仕組みを知るために参加者が各自、地図の仕組みがわかるペーパークラフトを組み立てます。製作しながら本当に重要な質疑を誘発することが目的です。実際に造り方から質問が始まり、重要な質問が相次ぎました。正四面体の頂点の位置はどうやって決めた?ずらすとこうなるのか?など。
  3. さらに現代の社会を反映させる地政学的なテーマをこの地図に描き込み。主題地図を製作させました。
  4. 製作した主題地図を各テーマに基づいてわかりやすく示す。そのことを念頭にはさみとセロテープを用いて切り貼りを行い地図の中心を最適化します。
  5. こうして出来上がった一人一人の主題地図をみんなで閲覧し、秀逸だと思われるものに投票し、発表を行いました。たとえば、「第2次世界大戦で沈没した戦艦の所在地とその海戦」では、もちろん参加者の知識に驚くべきものがあったのですが、普段、陸地を図に捉え、海を地に捉えて世界をみている我々に対し、その参加者は海での戦いを視覚化した。そしてなぜここで大きな海戦があったのかを地政学的に解説した。以上の2点で我々が全く知らなかった世界を視覚化したものでした。「ドイツとイギリスが存亡をかけてアルゼンチン沖で戦った」というトピックはその一つでした。

まとめ

世界地図図法を考案したり理解したりするには幾何学の知識が必要ですが、数式を理解する力以上に、球体を平らに切り開く図画工作(美術)の作業がものを言います。

またこの地図の活用の仕方を考えると、今の世界観を伝える地理や地政学、地学などの着眼点(社会科)と視覚的に描くためのインフォグラフィックスのアイデアが必要になってきます。(デザイン)

これら複数の「学科」を一体化して、参加者一人一人の世界観を世界地図で表すアクティブラーニングを実践できました。


2017PCCラーニングスタジオ「世界地図と地理とペーパークラフト Cartography, Geography and Paper Modeling」(鳴川肇 慶應義塾大学環境情報学部准教授)

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Special第14回は、2017PCカンファレンスのプレカンファレンスとして行われた対話ワークショップ「創造的な職員研修・FD体験! アクティブ・ラーニング・パターンによる対話」(井庭崇 慶應義塾大学総合政策学部准教授,2017PCカンファレンス実行委員長)についてお伝えします。

Special第14回 2017PCC対話ワークショップ報告