2020年度から必修化される小学校でのプログラミング教育実施に先立ち、Z会が本場シリコンバレーのプログラミングスクールとタッグを組んで全編英語の講座を開講した。Z会が考える21世紀型スキルの育み方と意義とは?白熱の教育現場を取材した。

取材・文責:木村修平(立命館大学生命科学部 准教授)

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Z会スタッフインタビュー

昼食後、Z会側の中心スタッフおふたりにお話を伺うことができた。まずは、ICT事業部部長で執行役員の草郷雅幸氏に訊いてみよう。

Z会といえば難関校受験の通信添削指導というイメージが強いと思うのだが、そもそもなぜZ会がプログラミング教育を行うのだろうか?この疑問に対する草郷氏の回答は実にクリアだ。



草郷氏

Z会では、未来の社会を築き、そこでたくましく生きる人々に本物の学力を身に着けてほしいという願いをもって、これまで教育をお手伝いしてきました。Z会が考える本物の学力、それは『自ら明日をひらく力』です。具体的には、自ら学び、考え、調べ、表現し、判断できる力。プログラミングの学習はまさにこれらの力が総合的に育める機会だと考えています。

草郷氏が言う「本物の学力」とは、換言すれば、昨今耳目に触れることの多い21世紀型スキルや課題解決能力と言えるかもしれない。実際、総務省が2014年に実施した「プログラミング人材育成の在り方に関する調査研究」においても、育成が期待される能力として論理的思考力や課題解決能力などが挙げられている。

Z会のこうした考えに共鳴したのがMake Schoolだったという。



草郷氏

Make School社では、プログラミングを実社会の課題解決に結びつけることをはっきりとミッションに掲げています。この点が私どもZ会の理念と共鳴し、2016年夏のSummer Academy開講に繋がりました。Make Schoolの特徴は、現役バリバリのエンジニアが講師を務めていることで、自然と教授内容にも実際のビジネスの現場で導入されている最新技術の情報が反映されます。プログラミングの知識は自分たちが生きている社会と地続きであることをまず知ってほしいという思いがあります

Z会とMake Schoolの最初のコラボレーション講座の手応えはどうだったのだろう。



草郷氏

Summer Academyは3週間と長丁場で、今回と同様に全日程を英語で行いましたが、ドロップアウトされた方は一人もおられませんでした。また、アンケート結果も好評でした。コードを学ぶだけでなく実際に何かを産み出す喜びを見出してくれた方が多かったのが嬉しかったですね。

次に、ICT事業部指導課でプログラミングを担当しておられる岸上真衣氏に、具体的な指導内容やレベルについて伺った。

参加条件にMac持参を指定しているのは異色だと思われるがどうなのだろう?



岸上氏

確かにそうかもしれません(笑)。でも、MacとSwiftに限定していることで差別化できている部分もあるかと思います。Macをお持ちでない方にはオプションで貸し出し機をご用意していますが、今回の受講生の皆さんはほとんどご自身のMacを持参されています。

ここで少し余談ながら近年のICTエンジニア業界におけるMacの存在感の高まりについて触れておきたい。2016年に行われた調査によると、開発者が用いるデスクトップ用OSとしてOS X(現在のmacOS)が初めて最も高いシェアを記録した。Mac人気の背景を語る上で欠かせないのはiPhoneの爆発的なヒットだ。2007年の発売以来、iPhoneは世界で累計10億台が売れた。これによりiOS用アプリ開発の需要も急速に高まった。iOS用アプリはMac上の開発環境(Xcode)と開発言語(Swift)がないと開発できないため、開発者のあいだにMacが広がった。また、BSDベースのOSを持つMacは開発環境の整備やメンテナンスがしやすいのも開発者に支持されたと思われる。

ITの世界は移り変わりが激しいので今後もMacやiPhoneが使い続けられるかどうかはわからないが、少なくとも2016年の時点でMacとSwiftを用いることは、ややハードルは高いものの、理にかなった選択と言えるだろう。実際、Make Schoolの講師もスタッフも全員がMacパソコンを使っている。

肝心のプログラミング指導についてはどう考えておられるのだろう。受講生の中には前回のSummer Academyからのリピーターもいるようだが、初めてプログラミングを学ぶ人もいるようだ。



岸上氏

プログラミング教育では段階的な一斉授業という形式が難しいと思います。そのため、受講生同士で教え合い、学び合うスタイルが大切だと考えています。Summer Academyでもそうした光景が見られました。


教え合いはMake Schoolのスタッフも強調していたが、それでは教える側の受講生はストレスを感じるのではないだろうか。



岸上氏

そこで重要なのが上限や成果物を決めないことだと考えています。あらかじめ決められたものを作りましょうと上限を決めるのではなく、青天井でどこまでも学べる環境を用意することで、進みの速い人はどこまでもチャレンジしていけるようにしたいと考えています。そうしているうちに行き詰まると、講師や友人やSlack上で相談して解決の糸口を教えてもらえます。プログラミングに限らず、学びとは一人でできることではありません。他者に教え、他者から教わる体験を通じて、リーダーシップやコミュニケーション力を育むことも講座の重要な目標だと考えています。

では、英語のレベルについてはどうだろうか。面接を行っているとはいえ、中にはついていけない受講生もいるのではないだろうか。



岸上氏

受講生の中にはインターナショナルスクールの生徒や帰国子女の方もおられますが、もちろんそうでない方もいます。参加条件には英検2級程度(高校卒業レベル)と書いてありますが、中学生の参加者もたくさんおられます。むしろ大切なのは、併記しております『英語でのコミュニケーションに抵抗感を持っていないこと』だと思います。ですから面接におきましても、まず英語でメッセージを伝えようとする意志があるかどうか、そのために英語を主体的に学ぶ意欲があるかどうかを重視しています。

最後に、保護者である大人たちが今回の講座に対して抱いている期待や反応はどうなのだろう。再び草郷氏に訊いた。



草郷氏

本講座に関心をお寄せいただいている保護者の方々には、いくつか共通しているお考えがあるように思います。ひとつには、プログラミングや英語をこれからの時代に必要不可欠なスキルと考えておられる点です。また、海外大学への進学を視野に入れておられる方が少なくないという点です。

筆者はこの日の夕刻、受講生の送迎に訪れた数人の保護者に許可をいただいて匿名のインタビューを行ったのだが、ほぼ例外なく草郷氏がいま述べた共通点を持っておられた。すなわち、プログラミングと英語を、個別の教科ではなく、いわば次世代の知的生産のインフラストラクチャとして捉える視点。Z会とMake Schoolが照準しているのは、そういう視点を持つ層なのかもしれない。



草郷氏

今の子どもたちが大人になる20〜30年後、彼・彼女たちの60%以上は今存在していない仕事に就くと言われています。多くの領域で既存の枠組みが急速に転換しています。冒頭でお話した本物の学力がますます重要になるのだと思います。今回のWinter Academyに先立ってMake Schoolの共同創業者でCEOのジェレミー氏が来日して講演をしてくれたのですが、同じ趣旨のことを強調していました。

今後のプログラミング教育の事業展開についてZ会はどう考えているのだろうか。



草郷氏

まだ詳しいことはお話できませんが、いろいろな可能性を探りたいと考えています。今回は首都圏からの参加者が多いですが、将来的には関西でも開催したいと思っています。近い未来に、私どもの講座で学んだ受講生が教える側になって戻ってきてくれたらとても面白いでしょうね。

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