2020年度から必修化される小学校でのプログラミング教育実施に先立ち、Z会が本場シリコンバレーのプログラミングスクールとタッグを組んで全編英語の講座を開講した。Z会が考える21世紀型スキルの育み方と意義とは?白熱の教育現場を取材した。

取材・文責:木村修平(立命館大学生命科学部 准教授)

はじめに

通信添削大手のZ会が2016年からプログラミング教育に本格参入した。サンフランシスコを拠点にアメリカや世界の主要都市でプログラマー養成講座を展開するMake School社との共同事業として、夏期と冬期の2回、パイロット的な集中講座が実施された。

2020年度から予定されている小学校でのプログラミング教育必修化を前に各社が独自の講座やサービスを展開する中、筆者が注目したのは、Z会の講座では英語でプログラミングを学ぶという点だ。プログラミング教育という新分野の開拓だけでも骨が折れそうだが、それを英語で行うとは、いったいどういう試みを行っているのだろうか?英語教育へのICT(情報通信技術)の活用を研究領域としている筆者は、ぜひこの目で現場を見たいという欲求を抑えきれず、無理を承知でZ会に取材を申込んだところ、快諾を得られた。

本稿では、2016年12月25日〜29日にわたって開催された冬期短期集中プログラミング講座「Winter Academy」の模様を、現地取材および関係者らへのインタビューに基づいて報告する。

次世代型英語教育とICT活用に注力するZ会

Z会では近年、次世代型英語教育とも呼ぶべき新分野に進出している。「多様な人々が存在する国際的な環境の中でコミュニケーションをはかり、協働することを可能にする英語力」の育成を掲げ、世界基準での英語力の到達度を測定することで海外大学の進学にも多く利用される「Cambridge English(ケンブリッジ英検)」の実施はその一例だ。

ICTの活用にも積極的だ。2016年春より、文教市場向けプラットフォーム「StudyLinkZ」を展開する。また、2017年3月からスタートする「Asteria」では中学生〜社会人を対象に幅広い年代層に向けたオンライン講座を開設する(英語4技能講座の例)。

英語教育とICTの融合事業とも言えるのが2016年9月にオンライン英会話大手のレアジョブと共同で実施した中高生限定の英語プレゼンテーション講座だ。この講座では受講生はSkypeやPowerPointをインストールしたノートパソコンの持ち込みが推奨された。

今回のプログラミング講座では、英語を教授言語として用いながら、なおかつノートパソコンを駆使してプログラミングを学ぶという点で、英語とICTを活用する同社の路線の延長線上にあると見るべきだろう。

Make Schoolとは

今回Z会と共同でプログラミング講座を行うMake Schoolはシリコンバレー発のプログラミング養成スクールで、2年間のProduct College、夏期集中の短期集中講座Summer Academyを提供している。

特徴的なのは講師陣だ。Make Schoolの講師の多くはシリコンバレーやニューヨークなどで活躍する現役のエンジニアであり、そのため最新技術を実践的なコンテクストで学ぶことができるのが人気の理由だという。今回のWinter Academyで講師を務める2人も例外ではなく、1人はニューヨーク在住でオンライン金融サービスのシニアエンジニアであり、もう1人はオンラインメディアのスタートアップのiOSアプリ開発者だ。

Make Schoolは自らを「大学に代替するプログラミングスクール」と呼んでいるが、正式な教育機関として認可されているわけではない。しかしながら、サンフランシスコのSoMa地区にある同校には世界中からエンジニア志望の若者が集っている。近年では日本国内でも知名度が上がっているようで、ネット上には日本人参加者によるインタビュー記事体験ブログが見受けられる。

同社はZ会と業務提携し、2016年夏に日本で初めてのSummer Academyを開催した(参考:シリコンバレーのプログラミング講座「Make School」日本上陸 中高生向け、3週間でiPhoneゲーム開発。今回のWinter AcademyはZ会とMake Schoolによる2回目の短期集中講座となる。

受講に必要なものは英語とMac

講座で使用される教材はすべて英語で書かれており、講師とのコミュニケーションもすべて英語で行われる。そのため受講生には英検2級程度の英語力(高校卒業程度)と英語によるコミュニケーションに抵抗感を持っていないことが求められる。また、講座ではSwiftを用いるため、MacOS搭載のパソコン(10.11 El Capitan 以上)が必須となる。Macを持っていない受講生にはオプションとして貸し出しを行っている。

プログラミング講座を行う場合、webベースのScratchViscuitHour of Codeを用いるのであればネットに繋がった端末とブラウザさえあればいいのでOSは不問だが、アップル製品であるiPhone / iPad / Mac用のアプリを開発する今回のような講座では同社が提供する開発言語であるSwiftを用いるため、Macが必須となる。ただしプログラミングに関する前提知識は不要で、今回の講座で初めてプログラミングを学ぶ生徒もいた。

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