2020年度から必修化される小学校でのプログラミング教育実施に先立ち、Z会が本場シリコンバレーのプログラミングスクールとタッグを組んで全編英語の講座を開講した。Z会が考える21世紀型スキルの育み方と意義とは?白熱の教育現場を取材した。

取材・文責:木村修平(立命館大学生命科学部 准教授)

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1日目、午後の部:Make Academyの充実した教材

昼食を終えて午後の部が始まった。受講生たちのMacはWi-Fiに繋がっており、Slackチャンネルでの挨拶も済んだ。時間のかかるXcode最新版へのアップデートも終わった。いよいよプログラミングの学習が始まる。

教材はMake SchoolのOnline Academy上に用意されている。Online Academyは誰でも無料でサインアップ可能で、ログインすると教材に自由にアクセスできる。

この教材は独習可能なように設計されていて、筆者も少しやってみたが、非常に出来が良い。解説用のテキストや図表による説明が充実していてわかりやすい。単元は細かくブロックに分割されていて、理解したらブロック左下の”MARK AS COMPLETE”と書かれたチェックボックスをチェックする。これにより進捗状況が把握できる。



丁寧でわかりやすいMake Schoolのオンライン教材


興味深いのは、上記のようなテキストと画像というベーシックな教材以外に、Playgroundファイルが用意されている点だ。PlaygroundはXcode ver. 6から実装された機能で、ビルドなしでリアルタイムでSwiftのコマンドを実行できる、いわゆるREPL環境 (Read-Eval-Print Loop) である… と説明するよりも実際の画面を見ていただくのがわかりやすいだろう。



XcodeのPlayground機能を用いたMake Schoolの教材。


Make Schoolでは単元ごとに対応したPlaygroundファイル(*.playground)が用意されており、ダウンロードしてXcodeで開くと上図のような画面になる。左側には解説が書かれており、ところどころ学習者が数値や命令を入力できる部分がある。入力された情報は自動的に右側の画面内に反映される。この教材の場合、画面の上から落ちてくる黄色の箱が落ち始める位置情報を左側で指定する。白い箱にぶつかるようするには落ち始める座標の値にどういう数値(変数)を入れればいいのか、何度も入力して確認することができる。

Make SchoolのOnline Academyにはこうした教材が約30単元分用意されている。そして驚くべきことに、豊富に用意されているPlayground教材のおそらくほぼ全てが、GitHubで管理・公開されている。正直、恐れ入ったという他ない。英語でプログラミングを学ぶ大きなメリットは、英語圏の豊かな学習リソースにアクセスできることだと改めて痛感した。

教え合いと対話を重ねて理解を深めていくスタイル

午後の部が始まるとき、講師から今後の学習を進めていく上でのルールが提示された。まずは「助け合う」こと。これは午前中にも強調されていたことだ。次に「講師の助けを借りずに友人同士でわからないことが解決したらお互いに褒め称え合おう」。最後に「Google検索を上手に使おう」。講師いわく、「答えを見つけることが目的ではない。学習を進めていて詰まったときに自分で解決できることが大切なんだ」。

この最後の点に筆者は強い共感を覚える。検索して解決策を探すというのは、楽をして答えを見つけ出す行為として日本ではしばしばネガティブに受け取られがちだが、必ずしも安易な方法というわけではない。web上の膨大な情報の中から適切な情報を探し出し、学習の前進に役立てることができるというのは、講師が言うように、自分で道を切り拓くための重要なスキルだ。筆者もかつてコンピュータの勉強に寝食を忘れて取り組んでいたとき、Google検索にどれほど助けられたかわからない。

「Google検索でもわからないことがあれば、講師を呼ぶか、あるいはSlackのチャンネルに気軽に投稿してほしい。待っていちゃダメだ。自分から動くんだ。」

時に教え合い、時に講師を呼び、時にGoogleで検索し、時にSlackにメッセージを投げながら、受講生たちは集中して単元の学習をすすめる。繰り返しになるが教材も会話もすべて英語だ。教材の英語は日本の中学生向けに書かれているわけではないので中には難しいのではと思える表現も見受けられるが、受講生数人に尋ねたところ、「わからないところは辞書を引いたり、前後の文脈から推測して意味を把握しています。特に問題はないです」とのこと。

ある程度の時間が経ったところで、テーブルごとに講師の一人のもとへ集まる。この時ばかりはMacを持たず、文字どおり身一つで講師を中心に車座になる。「今の単元で、みんな何を学んだかな?どこかわからないところや、疑問に思うことはないかな?どんなことでも言ってみよう」と講師は発言を促す。こうすることで、同じテーブルで学ぶ受講生同士で学習内容を復習し、共有しているのだ。プログラミングを学びつつ、参加者同士が対話を重ねることで、互いの信頼感とモチベーションが醸成されていく様子が傍目にもよくわかった。


単元を終えるごとに設けられる講師との対話セッション

教え合い、学び合い、話し合いながら、受講生たちは9:00から17:00まで、5日間にわたる高密度な学習を続けた。

最終日:次は何だ?(What Next?)

最終日の様子は、Z会から提供された記録動画で確認させてもらった。受講生各自がXcodeで自作したiOSゲームを発表する。筆者が取材した初日に比べて受講生たちはずいぶんリラックスしている様子で、笑い声の絶えない発表会だったようだ。


最終日の発表会の様子。(Z会webサイトより)

修了式では受講生ひとりひとりが挨拶を行い、温かい拍手が送られた。印象的だったのは、受講生の多くが今回の講座で新しく友人ができたことに感謝し、学習を継続したいという旨の発言をしていたことだ。中にはアメリカのMake Schoolへの”留学”を希望する人もいた。

「次の段階(next step)へ進みたい」「次の機会(next time)が楽しみ」、修了式では受講生たちが異口同音に”next”という単語を口にした。そしてそれは、最後に挨拶を述べたMake Schoolのアルヌセン氏も同じだった。

「短い期間だったけど、みんな本当によくがんばった。でもこれで終わりじゃない。この5日間はまだほんの入り口だ。次はなんだろう?(What next?)皆さんはもうMake Schoolコミュニティの一員だ。僕たちMake Schoolのミッションは『作り続けること』(Never stop making)。オンライン教材にはいつでもアクセスできる。今回は参加してくれて本当にありがとう!」


この原稿を執筆中、Z会関連の2つのニュースが飛び込んできた。ひとつめは、世界最大規模のMOOCプラットフォームを運営するCoursera社との業務提携(PR資料)。そしてもうひとつは、Z会✕Make Schoolプログラミングスクール第3弾となるSpring Seminar 2017の開催決定だ。英語とICTをインフラとした、Z会が見据える次なる学びの世界が広がり始めている。