会長が自らインタビューを行う企画の第7回。今回は、コロナ禍で大学がオンライン授業を導入する以前からZoomを活用した様々な教育を実践している筒井洋一さん(ツツイラーニングラボ、元京都精華大学教授、元CIEC副会長)にインタビューを行いました。

筒井さんはインターネットの黎明期よりドイツの大学とのネット授業を実施するなど、時代の最先端を行く授業を模索しつづけています。2001年11月に京都精華大学へ転勤してからも、学外の社会人が参加する授業を実践する等、常に従来の大学教育の枠組みを超えた取組みをしてきました。2008~2013にかけてはCIECの副会長も歴任し、さらに近年はZoomを活用したリアルとバーチャルを融合した学びの場を構築実践しています。また2019年のPCカンファレンスでは、Zoomを用いた基調講演やシンポジウムのオンライン中継実現においても中心的な役割を担いました。

新型コロナウイルスのため大学を含む全国の学校が休校を余儀なくされ、多くの教員がオンライン授業の準備に追われる中、筒井さんの「教室という閉鎖空間」に風穴をあける今までの実践、そしてコロナ後の世界における教育の在り方について、大変示唆に富むお話を伺うことができました。
なお、前回に引き続き今回もビデオ会議サービス「Zoom」でインタビューは行われました。 

(インタビュー日:2020年6月2日 編集: CIEC広報・ウェブ委員会 古賀暁彦)



若林会長(下)による筒井教授(左上)へのZoomインタビュー(右上:聞き手の古賀)



古賀

先生方、本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。



筒井

おはようございます。(若林先生の背景を見て)今日は出勤されているのですか?



若林

いや、(バーチャル背景を研究室のものに変更して)出勤しているように見せているだけです。


一同(笑)



若林

アリバイ工作用の写真のようなものです。ちょうど、自分が座っている席から後ろを撮った写真なので、ほぼ、このように映るはずだということを確認してやったという、本当にアリバイ工作です。実は、これをよく見てみると、後ろに撮っている私が映っています。



若林

さて、筒井先生は以前よりズームを活用したり、外部協力者の方に授業に参加していただいたりというような、古典的な既存の授業の形態と比べれば、新しいやり方に積極的に挑戦されています。ちょうど、この新型コロナウイルスの広がりで、一挙に全教員が全科目でオンラインにならないといけないというような状況になったこの時期に、是非、お話をお聞きしたい方ということで、筒井先生にお願いしました。ありがとうございます。



筒井

こちらこそ、どうもありがとうございます。



若林

まずは、今、本当にいろいろなお問い合わせや、いろいろなご協力などが、3月、4月、5月とあったのではないかと思います。全国の大学のオンライン教育の状況に、どのように関わっているか、どのように見ているかなど、そのあたりはいかがでしょうか。

全国の大学のオンライン教育の状況について



筒井

私の場合は大体3年ぐらい前から、実際にオンライン授業的なことを、対面授業の中に入れていましたから、ノウハウはかなりたまっているので、その点で言うと、対面からオンラインに変わってもそれほど違いはないのです。しかし、そういうことを想像もしていない先生方にとって、急に4月から突然、「オンラインにせよ」と言われたら、対面とオンラインの対立といいますか、違いを非常に気にされると思います。



筒井

もともと対面でかなりの成果を上げている先生方は、オンラインの方でもいろいろと工夫をされてされるので、むしろ、そのような方の新しい可能性のようなものを非常に感じています。



筒井

ただし、そのような先生方ばかりではないので、まだ非常に苦労していて、とても大変だとおっしゃっている方もいらっしゃいます。今まで私とつながりのあった方や関係のある方の相談には最優先で取り組み、まず自分の周辺のところから確実に支援している状況です。幸いオンラインの場合、私の自宅からサポートできるので、非常に対応しやすいというところはあります。



筒井

自粛が緩和されてきてもう一度対面にと戻ってしまうと、ほとんどオンライン授業のノウハウが蓄積されない状態になってしまいます。今後さらに大きな感染症の問題や気候変動などが起こりオンラインに戻るときに、また苦労されるかと思うので、今はいろいろなトライアルをされて、オンラインでの授業のノウハウを先生方に積んでいただくことが大事だと考えています。

ZOOMを活用したオンラインミーティング~チーム教育の重要性~



若林

学生に議論させたい、学生の受け止め方をきちんと大事にしたい、学生同士の学び合いを重視したいなどとなると、どうしてもズームその他のオンラインのインタラクティブなミーティングができる環境が必要です。そうした対面に近い授業をやろうという方々が、筒井先生のところに相談に来ているところだと思います。このオンライン・ミーティング、ズームその他を使った授業に取り組まれる先生方の受け止め、あるいは出会った障害というものは、どのような感じだったのでしょうか。



筒井

100人以上、何百人の授業を対面でされていた方が、そのままオンラインに移行するというところがかなりあって、そこのところで先生方が非常に苦労されているというところが大きいのかと思っています。



筒井

私はオンライン授業のときに、コンテンツを提供する人と、それを支えるズームその他のテクニカルなところを持つ人といいますか、いわばデリバリーをやるということと、コンテンツを伝えること、これを分けた方がいいですということをずっと言っています。



若林

具体的な役割分担は、どうなるのですか?



筒井

例えば、ズームに入る前にトラブる学生や受講者がいますから、そこを先生が対応すると、もう始まりません。その辺の部分は、テクニカルな人にお任せすればいいし、例えば、途中でさまざまな機能を使うときに、先生がやると進行が止まってしまいますから、それはもう別の方にお任せすればいいということを、ずっと言っています。



筒井

全部の授業に一人ずつサポートスタッフを付けると、とてもではないがコストが見合わないという話になります。しかしオンラインの場合は、1人のサポートスタッフが2~3の授業をパラレルに担当することができます。だからその点で、コスト的に言うと、やはり対面とはだいぶ違うといいますか、安くなるだろうというところは、正直なところあります。



筒井

確か教育工学ではかなり前から、授業は教師1人でやるのではなくて、例えば授業設計の専門家などのような人たちと協力してやりましょうということを言っておられたと思います。しかし、それがほとんど浸透していないということから、対面は教師1人であるという前提になってしまっているのが問題なのです。それをやっていないから、オンラインも教師1人でいいでしょうという話になっているのです。



若林

チーム医療という言葉が言われて久しく、メディカルの方がコメディカルということで、さまざまな医療専門職の皆さんが、チームで患者やその家族の皆さんをサポートするということが言われています。教育の世界も全く一緒で、しっかりと組み立てられた授業を運営する上で、これから「チーム教育」の考え方がますます求められますね。



筒井

そうです



若林

たとえば、チャットでたくさん書いてもらうという授業をすると、しゃべりながらスライドを見てチャットを見るということは結構大変です。なので私はティーチング・アシスタントの院生に、そのチャットの部分をお願いしたり、あるいは逆に院生にしゃべらせている間、私がチャットを見るというようにしたりしています。



若林

そういう意味では、オンライン・ツール云々というよりも、やはり教育を高めていく際に、チームで取り組むということが、これからの教育の質を高めていく上で、とても大事なアプローチあるいはシステムと言えるかもしれません。


オンライン授業のオンとオフ



若林

対面の場合は、勉強するという場に居るという強制力といいますか雰囲気が働くことで集中するということも生まれるわけです。しかしオンラインの場合は先ほどまでだらだらとゲームをやっていたその流れの中で、つまりオンとオフの切り替えがはっきりしない状況の下でやってしまうわけです。そのような状況の場で、これから勉強するという雰囲気を、オンラインの場合はしばしば意識的に作り上げないと、もうグダグダになります。先生はそのあたりのオンとオフの境界をどう考えてらっしゃいますか?



筒井

やはり、パブリックとプライベートの境目がかなり変わってきているという感じがします。家に居ると自分のプライベートを分けるということは難しいです。放っておいても、子供が走ってきたり、犬が来たり何かするものですから、これに対応してやらなければいけません。 その一方で対面授業の場合は、授業を受けるということ自体というよりも、その前後が割と楽しいのです。授業に来る前に、同級生や知り合いと少し雑談しているなどということが楽しいのです。



若林

本当に、オンラインだと雑談がなかなか設計できないというところは、課題だと言われていますね。



筒井

それを、僕らの仲間で言うと、「放課後」ということをよくやるのです。つまり、授業が終わった後、15分なり30分なり空けておくので、授業のことで聞きたければ来ればいいし、それ以外でも何か友達同士で話したいのであれば、「少しブレイクアウトへ飛ばすから、そこで雑談をどうぞしといて」という余白の部分です。これを作らないと、要は、「授業ですから始めます、終わります」でやってしまうと、余白の部分がありません。そうしたプライベートのないパブリックな授業は非常に浅薄なものになるので運営上の工夫が必要だと感じます。

開かれた授業~授業公開の実践~



若林

さて、筒井先生は以前から半ば公募のような形で外部協力者の方が参加する授業を実践されています。しかも、最初は見学者なのかと思ったら、授業の作り手になったり、授業にコメントをしたりということでした。立ち位置も単なるオブザーバー参加ということを超えた役割、働きをしているケースもあるようです。 なぜこのような授業を設計されているか、しかもその授業をずっとされてきて、手応えといいますか、学びの場としてどのように見ておられるのかお聞かせいただけますか?



筒井

はい、ありがとうございます。 僕は、そもそも授業公開をするということは、50代半ばになって初めてやったのです。それまでは自分の授業を、知り合いならいいですが、不特定多数の人に見せるなどいうことは絶対に嫌でした。



若林

互いの大学教員が、お互いの授業についてはあまり文句を言わないようにしておこうというところが、暗黙の前提として、多分今でも存在していますね。



筒井

そうですね。やはり、授業公開をしたくなかった最大の理由は何かと言うと、知らない人に自分の弱点を突かれたら嫌だし、格好の悪いところを見せることが嫌だというようなところです。



筒井

実は50代に5年ぐらいスランプの時期があり、どうしていけばいいかと思っていたときに、自分が上手くいっていないところを見てもらって、場合によれば厳しい批判もあるのですが、見てもらったところで、何とかそれを改善するために協力してもらえるような構造を考えました。 つまり、自分の弱みを見せることによって、弱みだったら私でも協力できますという人たちが来るというような仕組みを作っていくということを思いついたのです。だから、かなり厳しいご批判をされる方には、きちんと頭を下げて、「すみません、われわれの現状ではこれしかできないので、是非ご協力いただけますか」と言うと、間違いなく協力してくれます。



若林

なるほど



筒井

はい。厳しい批判は、そのときはもう本当に、のたうち回るほど嫌なのですが、その人に真摯に頭を下げて、「われわれができるのはここまでなんで、是非、何とか改善したいので協力してください」と言うと、やはり厳しい批判者というものは非常に強力なサポーターといいますか、助言者になってくれるということを何度も経験しています。


それと、特にやはり学習者が変わります。教師に教えられるということではなくて、ボランティアや見学の人などが来ると、教師が言うと正解を教えられたというような感じですが、社会人の見学者やボランティアの人になると、同伴しながら一緒にやっている仲間なので、お互い気楽にお話ができるというところで言うと、その人たちに見守られながらやっていくと、やはり変容の程度が半端ないのです。



若林

よき授業を作るためには、外部者の目というものが有効であるということ、そして外部協力者というものが入ることで学生にとって学びの場が変わっているというお話でしたが、こうした授業から、教員中心の普通の授業とは違って、生まれてくるものとは何なのでしょうか?



筒井

私が15週のシラバスやフレームワークだけ作って毎回の授業に関しては全て外部協力者にお任せします。そして自律的な学習者を育てるという共通のゴールだけはお互いに握り合った上で、外部協力者に権限を委譲しています。そうした教員と学部協力者とのフラットな関係を学生に明示することで、学生は教師に許可を求めに来なくなり、自律した学習者として育っていきます。



筒井

ボランティアも、授業が始まったときに学生と一線ではありません。事前に集まってもうまくいかない。初めて会ったばかりの人たちは、能力が高くても上手くいかないのです。その上手くいかないところを、何とかして授業に持っていくというようなところがあり、学生はそれをよく分かっています。 言葉では、「皆さん、初対面の人でもちゃんと集まって、成果を出すようなチームになりましょう」と言うことはできますが、やはり自分たち自身がやって上手くいかないところもあるけれども、それを何とか克服してやっている人の言うことだから、多分、学生は一緒にやるのでしょう。



若林

そこは結構おもしろい点ですね。 外部協力者の皆さん自身が、まさに自律的な学習者、自己調整型の学習を、個人としてもチームとしても、工夫をしながら進めているというプロセスが存在していて、そこに学生が、見て、関わって、自らもそれに学びながら、自己調整型学習としてのプロセスを体験をしながら、そのような能力、あるいは態度というものを学んでいるのですね。



筒井

オンライン授業になってもあまり変わったことがないといいますか、元々対面でやっていたことをオンラインにしても、あまり変えなくてもよかったということで言うと、非常に楽です。 一方でオンラインの見学者は増えました。今までは、見学者が実際に教室に足を運んでいただいた方が多かったのですが、そうなると、やはりどうしても近くの方になります。それが、オンライン見学者にすると、全国あちらこちらから来られるのです。 先日もオンライン見学者を募集したら、15分ぐらいで4名集まりました。オンライン授業、オンライン・セミナーをライブで見せるというところはまずありませんから。

CIECの魅力 CIECのこれから



若林

最後に、CIECの魅力やこれからということで一言お願いします。



筒井

90年終わりぐらい、ちょうどCIECが立ち上がった頃から加えていただいて、もう本当に最初は、全国の大変な方々が集まって、理系に限らず、学校の先生もいらっしゃいますし、さまざまな人たちが新しいものを作るのだというエネルギーは、やはりすごいと思いました。だから、そこで関わらせていただいて、副会長もさせていただきました。転換点のときに、そのような役員をさせていただいて、僕は非常にありがたかったと思います。



筒井

今、様々な学会からコロナで大会ができないのでオンラインの要請がたくさん来ます。だから、PCカンファレンスにしてもオンライン学会の道もせざるを得ないと思いますが、やはり学会というものは懇親会も含めて人的なつながりの部分をどこかに残さないといけないのです。 今は現地開催ができないから完全オンラインですが、現地開催ができるようになった時が、おそらく次の飛躍なのです。だから、現地で開催するもので全部やらなければいけないということは多分なくて、現地で集まるからこそいいものをしっかり厳選することと、あとは、その場でなくてもいいものはオンラインで実施すれば、多分経費的に非常に安くなります。かなり安くなりますから、そのような経費は下げつつ、成果を上げるような感じの学会になっていただければいいと思っています。



若林

ありがとうございます。確かに教育も、このような学会活動も、対面で人と人とのつながりで、それがいろいろな新しいクリエイティブなものを生み出せて、一緒にやっていこうという協同が生まれるというところがあるのです。これからますます、対面の価値というものも上がるけれども、オンラインでどんどんできることもあります。 ちなみにPCカンファレンスは今回は完全オンライン開催をする予定です。ただ、基調講演とシンポジウムは対談形式があるので、今のところ基調講演とシンポジウムの講師は同志社大学に集まって、そこから配信する予定になっています。



筒井

そうなのですか。



若林

あとはもう基本、分科会などは、それぞれの研究室や自宅から発表者が入ってくる、参加者も入ってくるという形にしようなどという話をしています。今回は、そういう意味では、完全オンライン開催でがんばりますが、これからは現地でもやるし、オンライン配信もあるというようなインタラクティブなブレンド型の学会大会、カンファレンスの開催というように、おっしゃるとおり、是非、バージョンアップしていきたいと思います。またそのときには、ご相談、ご協力をお願いするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。 本当に今日はどうもありがとうございました。



筒井

こちらこそありがとうございました。