今回のSpecialは、2017年1月に「CIEC MERLOT ハンズオン・ワークショップ 第1回」が開催されたのを機に、「MERLOT プロジェクト」を推進されている武沢 護理事へのインタビューを掲載する。 CIECはすでに2015年と2016年のPCCでシンポジウムのテーマにMERLOTを取り上げており、またMERLOTのインターナショナル・パートナーともなっている。このパートナーシップに伴いCIECはMERLOTとの連携のために「MERLOTプロジェクト」を設置し、 メンバーの拡大と教材開発による貢献促進を目指している。


CIECが連携するこのMERLOTは、教材をデジタル化するだけでなく、無料の教材としてインターネットでアクセスできるようにすることにより、世界中の様々な立場・年齢層の人々に対してデジタル機器を介した学習・教育の機会への道を開くものである。

武沢 護:早稲田大学大学院・高等学院、CIEC 理事
(聴き手:CIEC 広報・ウェブ委員会)



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MERLOT(メルロー)に関しては、2015年のPCC@富山大学と2016年のPCC@大阪大学のシンポジウムで取り上げられましたので、その名前は広く認知されつつあると思います。まず、MERLOTの紹介からお願いします。



武沢

MERLOTとはMultimedia Educational Resource for Learning and Online Teachingの略で、アメリカ・カリフォルニア州立大学(CSU)を中心とした高等教育における学習・教育の質向上のためのオンライン教材の集約・開発を目的とした国際協力団体です。蓄積されているコンテンツは教員が自ら作成した講義録だけでなく、授業ビデオ教材、シミュレーション教材など多岐にわたっています。専門分野別にカテゴライズされているのでGoogle検索するよりも効率的に検索できます。



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そのMERLOTとCIECは提携といいますか、協力関係を結びましたね。これはどういった関係ですか。



武沢

インターナショナル・パートナーという位置づけで覚え書きを結びました。少し堅苦しい言い方をすると、共通の使命として、教育プログラムに容易に組み込むことができるオープンオンライン学習教材の量と質の拡大・向上によって教育・学習の効率を強化することです。



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インターナショナル・パートナー、国際的な互恵関係ですか。オンライン教材を開発してそれを共に蓄積して行こうというわけですね。そうした目的を果たすためにCIECは新たにどのような活動を展開しようとしているのでしょうか。



武沢

CSUとしてCIEC側への要望は、現在全世界で日本語を学習している人々へのために、「日本語学習用コンテンツ」だけでなく「日本語によるコンテンツ」が求められていて、MERLOT 内にそのコンテンツを充実させたいということです。それは大学教育対象のみならずK-12(注)対象も含めてであり、CIECとの協力体制を確立させることで、より充実したOER(Open Educational Resources)の実現を考えているようです。

(注) K-12 (K-through-twelve):「幼稚園(Kindergarten)から高校3年まで」の意。



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その目的で今回の「CIEC MERLOT ハンズオン・ワークショップ第1回」を開催されたわけですね。当日(2017.01.4-5)の様子はいかがだったでしょうか



武沢

新年早々にもかかわらず20名弱の参加者があり、非常に有意義な2日間でした。 初日は、まずオープンエデュケーションやMERLOTの説明をしました。そして参加者のみなさんにMERLOTを実際に体験していただき、個人登録まで実施しました。 2日目は、MERLOTにあるコンテンツ作成コーナーを使い、教材コンテンツの作成するためのワークショップを行いました。「意外に作成が簡単だ」という感想をみなさんからいただきました。


参加された方の中には、大学で実際に日本語教材作成に携わっている方が複数参加され、このMERLOTの今後の可能性についていろいろ議論することができました。
さらに、参加者とともにMERLOTにおける操作や問題点とりわけ日本語環境についての改善なども共有しました。これらの内容は後日、CSU に連絡しました。


今後も、このようなワークショップの開催を企画します。具体的にはこの8月に東京と大阪で実施する予定で準備しています。興味をお持ちの方は是非、参加して下さい。



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以前、MacintoshにはHyperCardというハイパーテキストを扱うソフトがあって、いろいろな分野の教材が作られていました。今になって調べてみると、初代のMacintoshが1984年に登場して、HyperCardは1987年ですから、WWWやHTMLが登場する90年代より前に生まれた、ダウンロードという概念もない頃の教材開発環境でした。 HyperCard は今はもうありませんがそれにとって代わるものが次々と出てきていますから、自分のコンピュータで教材を作ってそれを世界中で共有するという文化は今年で約30年続いていることになります。 その最先端でかつ組織的な取り組みがMERLOTということになろうかと思いますが、これから教材を自分でも作ろうという場合には、開発環境を手元のコンピュータではどう整えればいいのですか。



武沢

HyperCardとは懐かしいですね。私も20数年前に自前で買ったパソコンはMacⅡsiでした。これには無料でHyperCardがバンドルされていて、教材は作りませんでしたがHyperCardで作られたゲームで遊びました。 話を戻しますが、先ほど言いましたように、MERLOTにはデジタルコンテンツを簡単に作成することができる環境が用意されています。これは便利です。もし、各自が自前のサーバー内にデジタルコンテンツが作成してあるならば、MERLOT内にURLのリンクを貼るだけです。




武沢

そうでない場合は、MERLOT内に「Create Material with Content Builder」というメニューがあり、いくつか用意されたひな形を使ってデジタルコンテンツをつくることが出来ます。 一番簡単なコンテンツは、授業資料をPDF化すればそれでOKです。 また、言い忘れましたが、MERLOT内で自動翻訳機能が働くので、日本語でのコンテンツで十分です。



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アメリカで作られるHyperCardのスタックは英語のものがほとんどだったように思いますが、英語を母語とするアメリカ国民の割合が50%となった今ではMERLOTの使用言語もグローバル化しているわけですね。ということは、日本語を学習するための教材だけでなく、日本語で学ぶいろいろな科目・分野の教材作りで貢献することがCIECには求められているということでしょうか。



武沢

まさにCIECに求められていることは、そのことです。高等教育のコンテンツだけなく、K-12のコンテンツも求められています。



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最後に、プロジェクトを牽引されている武沢先生としては今後どのような展開を考えていらっしゃるのか、すでに何かご構想をお持ちなら聞かせていただけますか。



武沢

MERLOTが構築しているのはオープンエデュケーショナルリソース(Open Educational Resources)を活用したラーニングコミュニティです。世界中で日本語を学習したい人、日本語の文献が読みたい人、日本研究に携わっている人にとって、現地で居ながらにして無償で日本語による教育コンテンツにアクセスすることが可能になれば、素晴らしいことだと思います。さらにグローバル化した現在、わが国に在住するさまざまな外国籍の子どもたちの教育保障も改善することができます。 すべての人が等しく教育を受ける権利、オープンエデュケーションの理念だと思います。CIEC がこのMERLOTプロジェクトを通して少しでも貢献できればと思います。



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日本でも様々な年齢の学習者、様々な言語を母語とする学習者に向けた成果が生まれてきそうで、楽しみですね。 本日はお忙しい中、大変有難うございました。